環境デュー・ディリジェンスを特定・評価から着手した先で、次に問われるのは発見事項の行き場です。
前回の着手編に続き、成果の返し先を扱います。
統合報告書やサステナビリティレポートで「重大な環境リスクは確認されませんでした」とだけ書かれた一文や、対話先と件数だけを並べた記述を目にする機会があります。
環境DDを実施しても、成果が開示や経営の意思決定へつながらなければ、外形だけの記述で終わりかねません。
環境省が2026年6月30日に公表した実務資料「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンスの実践」は、環境DDを担当部門の追加業務として置かないことを要点に挙げています。
負の影響・リスクの特定・評価から始めた取組を、①環境マネジメントシステム(EMS)、②ガバナンス、③開示へどうつなぐかまでを扱った内容です。
EMSとの統合では、三つのギャップを見るよう示されています。
適用範囲、マネジメント対象、意思決定・是正の三点です。事業所単位・国内中心で運用されるISO14001の枠組みだけでは、バリューチェーン全体を対象とする環境DDとして不足しうると整理されています。既存のEMSを壊さずに対象範囲を広げる論点として読めます。
取締役会の関与も明示的な論点に置かれています。
2026年の実務資料は、取締役会が環境DDプロセスに関与しているかを問いにし、2025年資料は、重大な負の影響に機動的に対応できなければ、法務・オペレーション・レピュテーションを通じて企業価値の毀損や善管注意義務違反につながりうると述べています。
実務では、重大案件の報告閾値、四半期レビュー、年次の方針承認といった仕組みが接続点になります。(閾値の水準自体は実務資料では示されていません)
ステークホルダー対応では、「意味のある対話」が重視されています。
対話は会合の開催自体を目的とせず、双方向で、意見の相違にも耳を傾け、進捗・成果・課題を共有するものとされます。直接のライツホルダー特定が難しい場合でも、専門家や独立した科学的資料を通じて理解を深める方法が挙げられています。
苦情処理と是正・救済も、DD全体へ戻す前提で整理されています。
苦情処理は対象範囲・プロセス・ガバナンスの三点で見直し、窓口は自社の操業だけでなくバリューチェーン全体が使える形かどうかで点検されます。是正には停止・防止・軽減に加え、必要に応じて予防的救済、復元・修復、補償の選択肢が挙げられます。苦情や是正の結果を個別処理で終わらせず、DDプロセスの見直しへ反映する流れです。
環境と人権を部署ごとに完全に分離すると、ライツホルダーとの対話や苦情処理が二重化します。2025年資料は、環境DDと人権DDを統合的に扱う重要性が増していると整理しており、共通のプロセスは統合しつつ分野の専門性は保持する形が示されています。
開示との接続では、2025年の環境省資料が、DDの方針・プロセス・発見事項・成果を外部に伝えることをDDプロセスの一部と位置づけています。
CSRDでは実際・潜在的影響、DDプロセス、ステークホルダー・エンゲージメントの状況が開示項目とされ、ESRSではインパクト・マテリアリティの評価がDDプロセスの結果として判明すると整理されています。重大なリスクは無いとだけ述べる開示や、対話先と件数だけを示す開示は望ましくないと明言されています。
日本の有価証券報告書実務でも、金融庁が「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示を求め、SSBJが2025年3月に基準を公表、2026年5月には準拠していないのに準拠と誤解させる言及への注意喚起を出しています。発見事項は、取締役会報告、社内リスク委員会資料、有価証券報告書の記述、任意開示の根拠資料へ転用できる形で残すと、開示要求と接続しやすくなります。
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環境DDの成果は、EMS・取締役会・開示という三つの受け皿へ返して初めて機能します。
実務資料は、発見事項を「何を見て、何が見つかり、どう改善したか」の形で残し、取締役会報告と有価証券報告書の記述へ同じ根拠から接続する道筋を示しています。
個別の苦情処理や単発の評価で完結させない設計が、開示の質に直結します。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。