環境省は2026年6月30日、「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンスの実践」と題する実務資料を公表しました。
ご参考:
環境省『「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンスの実践」 の公表について』(2026年6月30日)
2025年4月の「懇談会議論のまとめ」を土台に、令和7年度の推進支援事業で得た知見を反映した内容です。実務資料の中心は、負の影響・リスクの特定・評価、環境マネジメントシステム(EMS)との統合、苦情処理と是正・救済措置の三点にあります。
実務資料が示す着手順序の要点は、方針を完成させてから動くのではなく、負の影響・リスクの特定・評価から着手してよいという整理です。
出発点は方針ではなく、バリューチェーン構造の把握と、大まかな環境課題の情報収集に置かれます。
自社・子会社・関係先の業種、活動、所在国を広く認識したうえで、重大な影響が生じやすい事業領域から絞り込む順序です。
着手後の流れは直線で一度に終えるものではなく、反復しながら段階的に進められると明記されています。ステップを完璧に終えないと次へ進めない、という前提は置かれていません。
既存データの再利用として、実務資料は部品表(BOM)、施工体制台帳、既存の調達アンケート、外部データベースの組み合わせを挙げます。新しい調査システムを立てる前に、社内にある情報を評価軸へ読み替える発想です。
3社事例では、NECが部品表・外部ツール・社内既知リスク・TNFDのLEAPアプローチによる評価を組み合わせた例が示されています。残る2社は豊田通商と三井住友建設で、建設業の事例では、環境リスクを把握する過程で一人親方に人権リスクが大きい可能性を認識したとされ、環境と人権を切り離さずに着手する形が読めます。試行的なSAQ(自己評価質問票)では、気候変動や循環経済が相対的に高い項目として表れています。
特定・評価で見る対象も整理されています。
環境DDが見るのは企業にとっての損失リスクではなく、環境に対する実際・潜在的な影響であり、深刻性と発生可能性で優先順位を付けます。自社の財務影響を中心に据えたシングルマテリアリティ的な整理だけでは、優先順位付けの軸がずれる可能性があると読めます。
着手を急ぐ背景には、欧州の制度動向があります。
EUは2026年2月、オムニバス改正であるDirective (EU) 2026/470を公布し、CSDDD(企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令)の適用開始を2029年7月26日、加盟国の国内法化期限を2028年7月26日へ後ろ倒ししました。対象範囲も、EU企業で従業員5,000人超かつ全世界売上15億ユーロ超などへ絞り込まれています。
一方で環境省の2025年資料は、制度簡素化の動きが出ても、国際規範の原理原則に沿った取組を進めることが重要だと整理しています。
日本国内でも、金融庁が2023年1月の改正で有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄を新設し、SSBJが2025年3月にサステナビリティ開示基準を公表、2026年5月にはすべての定めに準拠していないのに準拠と誤解させる言及は不適切だと注意喚起しました。
文書化と証拠づくりの必要は、制度面でも高まっています。
実務資料が置く起点は、方針の完成ではなく、負の影響・リスクの特定・評価です。既存データで届く高リスク領域から段階的に回し始める順序が、着手の実務的な指針として示されています。適用時期の後ろ倒しは、社内設計と証拠づくりに充てられる期間として使えそうです。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。