SusTB communications サスティービー・コミュニケーションズ株式会社

未来に響くコミュニケーションレポートの企画・制作×コンサルティング

HINTサステナ情報のヒント

煙が消えた後に残る開示課題――ニコチンパウチから考える製品責任

健康

東京都内のたばこ販売店のレジ近くには、「オーラルたばこ」と表示された色とりどりの商品が並んでいます。2026年7月2日、日本経済新聞は、ニコチンなどを小袋に詰め、口内で摂取する「ニコチンパウチ」の利用拡大と、若者の依存リスクについて報じました。

 

日経電子版『「ニコチンパウチ」に若者依存リスク 無煙で手軽に口内摂取、利用急増』(2026年7月2日)

 

ニコチンパウチは、煙も蒸気も出ません。唇と歯茎の間に挟んで使うため、周囲からは利用していることが見えにくく、においも残りにくい。紙巻きたばこや加熱式たばこと異なり、「場所で囲う」ことが難しい製品です。

ニコチンパウチの登場は、たばこ規制を考えるうえで大きな転換点です。従来の受動喫煙対策は、煙という見えるリスクを前提にしてきました。屋内禁煙、喫煙所、分煙。いずれも、煙が出るから場所を分けることができたのです。

しかし、煙が消えたとき、リスクが消えるわけではありません。むしろ論点は、場所の管理から、製品設計・販売方法・マーケティング管理へと移ります。

 

「便利さ」が、規制の空白を広げる

WHOは2026年5月、ニコチンパウチについて初のグローバル報告書を公表し、若者への訴求を強めるマーケティング手法に警鐘を鳴らしました。WHOによれば、世界のニコチンパウチ販売量は2024年に230億個を超え、前年比で50%以上増加しています。また、約160カ国では、ニコチンパウチに特化した規制がまだ存在しないとされています。(世界保健機関)

日経記事でも、国内での利用拡大が紹介されています。JTは2026年3月に新ブランド「ノルディックスピリット」を立ち上げ、4月以降、コンビニエンスストア等で全国発売を始めました。JTの公式発表でも、同商品は「煙も、そのにおいもない」「いつでもどこでも気軽に」使える点が訴求されています。(JTウェブサイト)

重要なのは、便利さ自体が悪いということではありません。問題は、便利さが「使用場面を見えにくくする」ことです。見えにくい製品は、周囲との摩擦を減らします。一方で、未経験者や若年層への浸透、依存形成、将来の規制強化といったリスクも、見えにくいまま拡大しやすくなります。

 

投資家が問うのは「長期的に持続可能な成長か」

ニコチンパウチをめぐる論点は、健康リスクの有無だけではありません。企業開示の観点から見ると、より重要なのは、ニコチンパウチが長期的に企業価値を支える成長になっているのか、という点です。

 

投資家は、企業に対して「健康に良いことだけをせよ」と道徳的に求めているわけではありません。問われるのは、ニコチンパウチのような製品カテゴリーが将来、規制強化、訴訟、評判悪化、販売制限といった形で、企業価値を損なうリスクを抱えていないかです。

特にニコチンパウチのように、煙やにおいがなく、使用場面が見えにくい製品では、従来の「場所で囲う」対策だけではリスクを管理しきれません。喫煙所の設置や屋内禁煙、分煙の徹底は、煙が出る製品には有効な対策でした。しかし、煙が出ない製品では、論点は場所の管理から、製品設計、販売管理、広告表現、利用者層の把握へと移っていきます。

 

したがって企業には、成長商品の売上や市場拡大だけでなく、成長を支える顧客層や使用場面、マーケティングのあり方について説明することが求められます。

同様の開示課題は、たばこ業界に限らず、消費者の行動変容や依存性、過剰利用に関わる製品・サービスを扱う企業に共通のものであると考えます。

 

サステナビリティ担当者さまへ

プライム上場企業のIR・サステナビリティ担当者にとって、ニコチンパウチをめぐる論点は、たばこ業界だけの話ではありません。

新しい製品・サービスが、「便利」「手軽」「見えにくい」ことを価値として成長する場合、背後に、利用者保護、未成年者保護、依存、過剰利用、データ取得、広告表現といった論点が潜んでいることがあります。

煙が消えたからといって、リスクが消えるわけではありません。
むしろ、見えなくなったリスクをどう見えるところに戻すのかが問われることを念頭に置いておく必要がありそうです。

 

ーーー

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

記事一覧へ