有価証券報告書のサステナビリティ情報に、第三者保証が付いた数字と付いていない数字が同じ書類のなかに並ぶ局面が、いよいよ近づいています。どこまでが保証されているのかを読み手が一目で判別できるのか。保証制度の設計は、実装の問題へと入りつつあります。
2026年5月25日に開かれた企業会計審議会「第1回サステナビリティ情報保証部会」は、保証が「義務化されるらしい」という段階から、「誰が、何を、どの範囲で、どのように保証するのか」を詰める段階へ移ったことを示すものでした。SSBJ基準の適用義務化と保証義務化の大枠は、すでに金融審議会のワーキング・グループで描かれています。部会で問われたのは、大枠を実際に動かすための保証基準のあり方です。
事務局資料では、日本の保証制度を、ISSA5000(保証基準)、ISQM1(品質管理基準)、IESSA(倫理・独立性基準)という国際基準と整合的に設計する方針が示されました。ただし、国際基準を直接指定するのではなく、「国際基準と同等な基準」としたうえで、日本の制度や実務に応じた調整を加える方向です。
背景には、2028年3月期から時価総額3兆円以上のプライム上場企業に保証が義務づけられる予定があります。準備期間を考え、2027年3月を目指して保証基準等を利用可能にする、という時間軸も示されました。
保証制度は単なる「GHG排出量の検証」ではなく、有価証券報告書に載るサステナビリティ情報全体の信頼性を支える仕組みとして設計されています。
ISSA5000は、保証業務実施者を公認会計士や監査法人に限定しない、いわゆるprofession-agnosticな基準です。日本でも保証業務実施者は登録制(法人)とされ、監査法人か否かを問わず、要件を満たせば担い手になり得ます。
一方で、担い手が広がっても保証の水準が下がるわけではありません。
誰が保証を行う場合でも、品質管理、倫理、独立性について一定の水準が求められます。
資料では、ISQM1やIESSAと同等の規律が重視され、守秘義務、非保証業務との同時提供禁止、ローテーションなどが論点に挙がっています。
多様な担い手を認めるからこそ、共通の品質基盤をどう確保するかが中心の論点になっています。
部会で特に注目を集めたのが、「ガバナンスに責任を負う者」の扱いです。
ISSA5000では、保証業務実施者が経営者だけでなく、ガバナンスに責任を有する者ともコミュニケーションを取ることが求められます。事務局案は、監査役等を基本としつつ、各企業のガバナンス形態に応じて「保証業務実施者と企業の間であらかじめ合意する」という柔軟な考え方を示しました。
事務局案に対し部会では、「あらかじめ合意」では曖昧でフリーハンドに過ぎる、投資家から見て信頼感に欠ける、といった声が複数上がりました。
監査と同様に監査役会・監査等委員会・監査委員会を原則として明示すべきだという意見や、取締役会の関与の要否、保証の相手から経営者を除く旨の明確化を求める声も出ています。
論点は、監査役等を「作成責任者」にすることではなく、保証人が重要事項を誰に伝え、誰と合意し、誰が経営者を監督するのか、にあります。保証制度は、サステナビリティ情報をガバナンスの監督線へ接続し始めています。
もう一つの重要論点が、部分保証です。保証範囲は、当初2年間はサステナビリティ情報全体ではなく、Scope1・2のGHG排出量、ガバナンス、リスク管理に限定される方向です。
ただし実務上の難しさがあります。
SSBJ基準は部分的な準拠を基準上は想定しておらず、全ての定めに従って初めて準拠となります。結果として、有価証券報告書のなかに「保証済みの情報」と「保証対象外の情報」が混在します。投資家が保証範囲を誤解しないよう、Scope1・2排出量についても、数値だけでなくデータ収集範囲などの定性情報まで含まれることが資料では期待されており、線引きの明確化が問われます。
なお審査の明示的な要求や、引継ぎ・共同保証に関する日本独自の規定も、調整すべき論点に挙げられています。
サステナビリティ保証は、排出量に第三者チェックを付けるだけの制度ではありません。
有価証券報告書のなかで、誰が監督し、どこまでを保証し、どのように投資家へ誤解なく示すのか。ガバナンスと開示設計が交わる地点で、制度はどんな輪郭を取っていくのでしょうか。
ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当: 川上佳子
出典:企業会計審議会第1回サステナビリティ情報保証部会 事務局説明資料・議事録、日本公認会計士協会「ISSA5000の概要」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。