本日(2026年6月29日)の日本経済新聞朝刊に、こんな記事が載っています。
ファストリ、供給網の人権を厳格管理 世界700工場で 欧州の規制強化備え
アパレル大手の取引先工場を対象とした人権監査で、5段階評価の最低位にあたるE評価を受けた28の縫製工場が、取引見直しの対象となりました。是正の確認や再発防止策の実施を経て、最終的に3工場との取引が終了しています。ファーストリテイリングが2025年8月期に導入した新しい監査プログラムでの結果が、本日の朝刊で報じられました。
本日のブログでは、この記事についての解説を書き、最後に私の読み解きを少し載せておきます。
ファーストリテイリングは年1回をめどに、衛生環境や安全性、賃金や労働時間などをめぐる行動規範の順守を確認してきました。従来の人権監査は、児童労働や強制労働の有無を、業界共通のチェック項目で確かめる形が中心でした。
新しい監査プログラムでは、国・工場ごとのリスク指標に加えて、工場のガバナンス、組織体制、提出される情報の信頼性が評価対象に加わっています。
監査の範囲は、1次取引先のすべての縫製工場に加え、主要な2次取引先にも及びます。2026年3月時点の生産パートナーリストは705件まで掲載され、国、所在地、工場類型、労働者規模、女性労働者比率、移民労働者比率なども併記されています。
問われる対象は、違反が存在するかどうかから、工場がリスクを管理できているか、提出資料を信用できるかへと広がりました。
ファーストリテイリングは、A〜Eの5段階のうちE評価を「深刻な人権リスクおよび不十分なリスク管理体制」と位置づけています。
E評価の例には、児童労働や強制労働だけでなく、違法な労働仲介業者の利用、外国人移民労働者への採用手数料の未返還、賃金控除、強制的な時間外労働、過度な連続勤務などが含まれます。
28工場のうち、2026年1月末時点で14工場は是正を確認済み、11工場は是正・再発防止策を実施中、残る3工場とは取引が終了しました。
監査の結果が改善指導にとどまらず、取引を続けるか終えるかの判断へ直接つながっている点が、従来との違いです。
ファーストリテイリングは2021年に米国税関で一部の綿シャツ製品の輸入を止められ、強制労働は確認されていないと説明しながらも、輸入差し止めの時点では通関許可が得られなかった経緯を公表しています
問題がないと述べるだけでは足りず、当局に通用する証拠が必要になる局面が、すでに表面化していました。
欧州連合の企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)は、2026年のOmnibus修正で対象企業が絞られ、加盟国法の適用は2029年7月から予定されています。
強制労働産品規則は2027年12月14日から適用される見通しです。
欧州で店舗を展開するファーストリテイリングにとって、規制の本適用はなお数年先にあります。
一方で監査の更新は2025年8月期に動き、生産パートナーリストの開示も2026年3月から縫製・加工・主要素材・副資材へと統合されました。
世界の投資家とNGOが企業の人権対応を格付けする企業人権ベンチマーク(CHRB)の2026年版で、ファーストリテイリングは105社中11位、アパレル20社中2位に位置づけられています。
規制の発効を待たず、監査と開示の側が先に動いている構図がうかがえます。
今回の日経記事から見えたのは、「問題があるかないか」を確かめる監査から、「リスクを管理できているか、提出された情報を信用できるか」を測る監査への移行でした。
違反ゼロを示す監査票よりも、発見・是正・取引判断までを証拠でたどれるかどうかが、評価の重心になりつつあります。
人権デューデリジェンスは、サステナビリティ部門の報告テーマから、調達・法務・経営をまたぐ管理プロセスへと、位置づけが変わってきました。
違反の有無を確かめる監査から、管理体制と情報の信頼性を測る監査へ――。
プライム上場企業の供給網開示は、問題ゼロを示す文書から、何を根拠に重要と判断し、誰がどの証拠で確認するのかを語る文書へ、どこまで姿を変えていくのでしょうか。
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本日もお読みいただきありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。