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ネイチャーポジティブ調達ガイドライン案に並ぶ、見慣れない顔ぶれ

サプライチェーン / 自然資本

自然への影響が大きい原材料として、アボカドやコーヒーと並んで、砂(建設用)、セメント、鋼材、リチウム、ニッケル、ボーキサイト・アルミニウムが挙げられている一覧があります。

環境省が2026年6月15日に公表した「調達におけるネイチャーポジティブの実践のためのガイドライン(案)」が引用する、Science Based Targets Network(SBTN)のHigh Impact Commodity Listです。

ネイチャーポジティブ調達という言葉から食品・農林水産業を思い浮かべる読者にとって、建設・電池・金属が食品と同列に並ぶ一覧は、ガイドライン案がカバーする範囲の広さを示しています。

本日は、ガイドライン案を一読して気づいたことを、3つご紹介します。

 

1.責務Aと推奨Bの境界は、コモディティによって動く

ガイドライン案は、調達における基本事項を「A:事業者の責務として対応が必要」と「B:先行対応を推奨」の二区分に整理しています。一見すると、Aは必須、Bは任意という固定的な階層に読めます。ところが、ガイドライン案自身が、境界の可動性を明示しています。

例として挙げられているのが、EUDR(EU森林破壊防止規則)です。EUで事業を行い、EUDR対象コモディティを扱う企業にとって、「自然資本の損失に寄与しないサプライヤーからの調達」は規則上の義務であり、法令遵守に区分されます。一方、規制が厳格化していない国・地域で、EUDR対象外のコモディティ(綿花など)を扱う企業にとって、同じ基本事項は「B:先行対応を推奨」に区分され得ます。

この可動性は、区分表の読み方を変えます。区分表を、自社全体に一律に当てはまるチェックリストとして読むと、見誤ります。同じ項目が、扱う原材料と販売先によって義務にも推奨にもなるため、複数のコモディティを扱う企業ほど、区分は一枚の表ではなく、原材料ごとに塗り分けられたまだら模様として現れます。

 

2.回避・軽減が責務、保全・回復は推奨という設計

基本事項の水準区分は、SBTNのAR3Tアクション・フレームワークのミティゲーション・ヒエラルキーを踏まえて割り当てられています。

  • 回避(Avoid)・軽減(Reduce)にあたる「自然資本の損失回避・軽減」は責務Aに、
  • 復元(Restore)・再生(Regenerate)にあたる「自然資本の保全・回復・創出」は推奨Bに、

それぞれ置かれています。

(注)ただしガイドライン案は、マイニングセクターでは保全・回復・創出が特に重視されると注記し、業種によって上段が事実上求められる場合があると断っています。

 

水準の置き方は、言葉と達成水準の関係に関わります。

ネイチャーポジティブは本来、損失を止めて反転させる、すなわち自然を回復させる概念です。ところが責務の重心は悪化させないこと(下段)に置かれ、回復させること(上段)は推奨にとどまります。

責務Aを満たした状態は、自然を回復させているというより、損失をさらに広げない状態に近いものです。「最低限を満たした=ネイチャーポジティブを実践した」と読むと、言葉と中身のあいだにずれが生じます。

 

3.農場まで遡れない前提で引かれた、最低線

トレーサビリティについて、ガイドライン案は農場・圃場レベルまでの遡及を理想としつつ、コモディティによっては確保が難しいと認めています。

挙げられている例がパーム油です。複数の圃場で生産されたパームが一つの集荷場でまとめて管理される場合、集荷場の先まで遡ることが難しくなります。

 

さらにガイドライン案は、最低限として「問題が発生した場合や発生の懸念がある場合に、課題の特定・解決が可能と判断できるところまで遡ることができる体制」を求めると整理しています。

最低線が後退しているということは、「トレーサビリティを確保している」という同じ言葉が、二つの状態を指し得るということです。

農場・圃場まで遡れている状態と、問題が起きたときに原因まで辿れる体制がある状態。

どちらも「確保」と呼べてしまうため、語り手がどちらを指すかで、見えているリスクの範囲は変わります。

 

要するに:線は引き残されている

責務Aと推奨Bの境界、
回避・軽減と保全・回復の置き方、
トレーサビリティの最低線。

三つの特徴に共通するのは、ガイドライン案が一本の確定線を引かず、線引きを下流(コモディティ・市場・調達の現場)へ渡している点です。

固定基準を全企業に一律で当てるよりも、原材料と市場の実態に委ねる。設計としては、より現実的な線です。

ただし、現実的なのは基準をつくる側であり、引き残された決定は、ガイドラインを使う企業が引き継ぎます。結果として、「準拠している」の一言は、前提を欠くと中身を運びません。どのコモディティで、どの市場で、どの水準・どの意味のトレーサビリティを指すのか。前提の明示が、準拠の語に内容を与えます。

 

「準拠」を、前提まで含めて語ることを選ぶのか。
それとも、一言で足りるものとして語るのか。

 

それは企業の選択に委ねられています。

 

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本日もお読みいただきありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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