2026年6月17日、国際標準化機構(ISO)は、組織のネットゼロ戦略・目標・実行・進捗を示すための国際規格案「ISO/DIS 14060 Net zero aligned organizations」の照会を開始しました。
また新しいものが出たのか。
正直、そう感じた担当者様も少なくないと思います。
SSBJ、ISSB、TCFD、SBT、CDP、GX、トランジション・ファイナンス。気候関連だけでも、すでに見るべきものは十分に多い。そこにISO14060と言われても、「今すぐ何をすればよいのか」が見えにくいのが実感ではないでしょうか。
結論からいえば、ISO14060は、現時点で急いで認証取得を考える話ではありません。
まだ最終規格ではなく、DIS、つまり国際規格案の段階です。なお、ISO自身が認証を行うわけでもありません。将来的に外部機関による適合性評価や認証の市場が整う可能性はありますが、現時点ではそこから考える段階ではないでしょう。
今見ておきたいのは、細かな要求事項の暗記ではありません。
ネットゼロに対する国際的な目線が、「宣言」から「実行可能性」へ、さらに「検証可能性」へ移っていることだと私は考えます。
今回のISO14060案で重要なのは、ネットゼロが単なる宣言ではなく、第三者が確認し得る戦略・目標・実行・進捗として扱われようとしている点です。
ISOはこれまで、IWA 42:2022というネットゼロ・ガイドラインを公表していました。今回のISO14060は、その流れを受け、より正式な国際規格として整備しようとするものです。
ここで問われるのは、「2050年ネットゼロを掲げているか」だけではありません。
中間目標はあるか。Scope 1・2・3はどう扱うか。対象組織や事業範囲は明確か。削減策は事業計画や設備投資と結びついているか。カーボンクレジットや除去への依存は適切か。進捗を誰が、どの頻度で見ているか。
つまり、レポートに美しく書けているかではなく、その背後にある計画が、事業として動く形になっているかが見られます。
この意味で、ISO14060は「開示の基準」というより、「開示される前のネットゼロ計画そのものを点検する物差し」と捉えるほうが実務に近いと思います。
なお、ISO14060案の対象は、製品そのものではなく組織です。個別製品のカーボンニュートラル主張やLCAの話とは、いったん切り分けて考えてよいでしょう。プライム上場企業の担当者様にとって重要なのは、自社グループ全体として、ネットゼロに整合した組織運営をどこまで説明できるかです。
以下、私の見立てとして。
まず、今すぐ見なくてよいのは、「ISO14060への適合性評価や外部認証を取るべきか」という話です。
現時点では案の段階であり、最終化前です。日本企業が一斉に対応を迫られるようなものではありません。
また、既存のTCFD開示やSSBJ対応をいったん脇に置いて、ISO14060用に別プロジェクトを立ち上げる必要も、現時点では高くないでしょう。担当者様の実務負荷を考えると、そこに手を広げすぎるのは得策ではありません。
一方で、見ておくべきところは明確だと思います。
自社のネットゼロ目標と、中期経営計画、設備投資計画、研究開発、製品ポートフォリオ、サプライチェーン施策が本当に接続しているか。
特にプライム上場企業様では、SSBJ基準への対応が進むにつれ、「気候関連リスク・機会を開示しているか」だけでなく、「移行計画の中身はどこまで実行可能なのか」が問われていきます。
ただし、ここは少し整理が必要ではあります。
SSBJ基準は、企業に対して移行計画の策定そのものを一律に求めるものではありません。けれども、気候関連の移行計画がある場合には、その内容、主要な仮定、実現に不可欠な要因や条件の開示が問われます。
つまり、移行計画を掲げるのであれば、「あります」と書くだけでは足りません。何に依存しているのか。どこまで自社でコントロールできるのか。どこに不確実性があるのか。そうした説明が必要になります。
ISO14060は、その裏側を確認するための補助線になるのではと考えます。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。