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働くシニアの労災が増えている——今年の労働安全衛生の記載に関わる動き

人的資本開示 / 品質・安全

三重県の小売店で長年働く70代の女性が、レジ精算をしていました。
買い物客のカゴを置こうと足元をよく見ずに動いた際、コードに足が引っかかって転倒。
台の角に額をぶつけ、頭部打撲で11日間の休業を余儀なくされました。

日本経済新聞が伝えた一場面です。

(ご参考記事)
日経電子版『働くシニア、労災に備え 持病も「業務で悪化」は対象』(2026年4月18日)

 

これは、小売りに限った話ではありません。
製造・建設・介護・物流と、業種を問わず同じ構造が広がっています。

 

現場で何が起きているか

厚生労働省によれば、2025年に労災で死傷した60歳以上は速報値で4万1000人を超え、過去最多を更新しました。労災全体に占める割合は約3割で、20年間でほぼ倍増しています。

事故の型にも偏りがあります。厚生労働省の集計では、60歳以上女性の転倒による骨折は20代の19倍、60歳以上男性の墜落・転落は約3.5倍に達します。人手不足や経済的な理由から働くシニアは増え続け、60歳以上の就業者数は約1500万人と全体の2割を超えました。

日本経済新聞は、冒頭でご紹介した記事を含め、同時期に3本の記事を重ねています。
改正労働安全衛生法の施行と現場の減災対応、シニア労災を経営リスクとしてとらえる視点、労災保険と持病・既往症の業務起因性。現象・規制・補償が一時期に出そろった形です。

 

努力義務化と労災補償の交わり

2026年4月1日、改正労働安全衛生法が施行されました。

新設された第62条の2は、事業者に高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善などを「努めなければならない」と定めます。従来のエイジフレンドリーガイドラインを法的に格上げした形で、2025年12月に公表された厚生労働省の指針は、手すりの設置や段差の解消、照明の確保といった例を挙げています。

 

努力義務に罰則はありません。
ただし労災が起きた際、防止措置を講じていなければ、民事上の安全配慮義務を欠いたとして損害賠償を求められる根拠になりうると、弁護士は指摘します。

補償の側にも論点があります。
労災保険は持病があっても業務が原因なら対象になり、脳・心臓疾患や腰痛は、既往症の著しい悪化が業務起因と医学的に認められれば認定されます。年齢を重ねたケガを「仕方ない」と申請しない隠れ労災の問題も残っています。

 

今年の労働安全衛生の記載で確認しておきたいこと

シニア労災をめぐるこうした動きは、今年のサステナビリティ報告における労働安全衛生の記載に、少なくとも3つの確認点を浮かび上がらせます。

ひとつは、労災データの粒度です。
多くの統合報告書やサステナビリティレポートは、度数率や強度率を全社一括で示すにとどまっています。ですが、死傷者の3割が高齢者という現状では、年齢別の内訳がないと実態が見えにくくなります。墜落・転落や重量物を扱う製造・建設の現場では、年齢と事故の種類の関係が記載の説得力を直接左右します。

次は、自社の健康認識と労災統計のずれです。
厚生労働省の調査では「自社の60歳以上は健康」と認識する企業が48.1%にのぼります。健康経営や人的資本の文脈で語ってきた「健康」の手応えが、労災統計の実態とどれだけ合っているか。記載の説得力は、両者の接合部に現れます。

最後に、安全配慮義務の扱いです。努力義務という言葉の軽さとは裏腹に、賠償の根拠になりうる以上、労働安全衛生はガバナンスや法務リスクの文脈にも重なります。
GRI 403が求める危険源の特定や労働者の参加と、現場の減災の取り組み——ダイキンのAIによる姿勢解析、JFEスチールのアクティブ体操のような具体策——が報告書のなかでどう結びついているか。

 

シニアの労災は、長く労働安全衛生の記載の片隅にありました。
死傷者の3割という現状を前に、報告書は何を新たに書き込むことになるのでしょうか。

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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