2026年4月30日、WRI、SCS Global Services、WWF、CEO Water Mandateの4団体は、企業の水リスクを評価・管理するための新たな標準化ガイダンスを開発すると発表しました。
タイトルは、Corporate Guidance for Assessing Water Scopes 1-3 in Value Chains。直訳すれば、「バリューチェーンにおける水のScope 1〜3を評価するための企業向けガイダンス」です。
WRIのリリースは、企業が水リスクへの対応を求められている一方で、現状には “without a common way to evaluate it”(それを評価する共通の方法がない)という課題があると述べています。
たしかに、企業の水開示はこれまでも存在してきました。取水量、排水量、水使用量原単位、水ストレス地域の拠点、CDP Water Securityへの回答。多くの企業が、すでに何らかの形で水に関する情報を開示しています。
しかし、その多くは自社拠点を中心にした管理でした。工場でどれだけ水を使ったか。どれだけ節水したか。排水をどう管理しているか。もちろん、これらは重要です。
水リスクは必ずしも自社工場の中だけで発生するわけではありません。
食品会社であれば、農産物の生産地における水不足が大きなリスクになります。アパレルであれば、原材料栽培や染色工程が問題になり得ます。洗剤や飲料、半導体、紙、化学品なども、原材料調達、製造、使用段階のどこに水への依存や影響があるかを見なければ、本当のリスクは見えてきません。
そこで今回のガイダンスが目指すのが、“shared language and consistent methodology”(共通言語と一貫した方法論)です。
これは、温室効果ガスにおけるScope 1、2、3の考え方を、水リスクにも応用しようとする試みです。WRIはその考え方を “direct operations (Scope 1), purchased inputs (Scope 2) and value chain activities (Scope 3)”(直接操業=Scope 1、購入インプット=Scope 2、バリューチェーン活動=Scope 3)と説明しています。
ここで大切なのは、水をCO2と同じように単純換算する、という話ではないことです。
水は、どこで使うかによって意味が変わります。同じ1立方メートルの水でも、水が豊富な地域と水ストレスの高い地域では、企業活動が社会や生態系に与える影響はまったく違います。季節性、流域、生態系、地域住民との競合、汚染の種類も重要です。
したがって、この動きは「水の排出量計算ルール」ができるというより、企業が水リスクをどこで発生しているものとして捉え、どこに優先的に手を打つべきかを整理するための共通フレームが生まれようとしている、と見るべきでしょう。
今回発表されたのは、完成したガイダンスではありません。WRIらは、今後18か月にわたるマルチステークホルダー・プロセスを通じて開発を進め、最終ガイダンスの公表は2027年第4四半期を目標としています。つまり、Water Scope 1〜3の厳密な定義や、算定・評価方法がすでに確定したわけではありません。
では、まだ未確定だから様子見でよいのでしょうか。
むしろ逆だと思います。
基準やガイダンスが固まった後に対応しようとすると、企業はどうしても「求められた表に数字を入れる」発想になりがちです。しかし、水リスクで本当に難しいのは、数字を集めることの前段階にあります。自社の事業はどの流域に依存しているのか。主要原材料の生産地はどこか。どのサプライヤー、どの製品、どの使用段階に水への依存や影響があるのか。これらは、ガイダンス公表後に一気に整理できるものではありません。
統合報告書やサステナビリティレポートの制作担当者あまにとって、示唆は明確です。
これからの水開示では、「当社は節水に努めています」だけでは足りません。自社拠点の水管理に加えて、主要原材料、重要サプライヤー、製品使用段階、販売地域まで含めて、水への依存・影響・リスク・機会を説明する必要が高まります。
CDP、TNFD、SBTN、AWSなど、既存の枠組みは今後も重要です。ただし、それらを別々に回答するだけではなく、自社のバリューチェーン上のどこに水リスクがあるのかを、ひとつの地図として示せるかが問われるようになります。
水にもScope 3が来る。
それは、企業の水開示が「工場の蛇口」から「価値連鎖の地図」へ移っていくということです。そして、その地図づくりは、ガイダンスが完成してから始めるのでは少し遅いのかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。