2026年6月、GPIFは「第11回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表しました。
(ご参考資料)
GPIF「第11回機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」(2026年6月)
この資料は、機関投資家のスチュワードシップ活動を、上場企業側がどう受け止めているかを把握するものです。対象はTOPIX構成企業で、今回の回答企業は625社。統合報告書の制作担当者さまにとっても、見逃せない示唆が含まれています。
集計結果では、統合報告書の位置づけについても言及がありました。
今回のアンケートでは、サステナビリティ情報開示が機関投資家に活用されていると感じる企業に対し、活用されている媒体を尋ねています。その結果、「統合報告書」を選んだ企業は92.2%に上りました。有価証券報告書やコーポレート・ガバナンス報告書を大きく上回る結果です。
これは、統合報告書が単なる任意開示資料ではなく、投資家との対話の入口として機能している——少なくとも、回答企業の実感としてはそうなっていることを示しています。
統合報告書について、企業からは、価値創造プロセスやマテリアリティの進捗、GHG削減、従業員エンゲージメントなどが、投資判断の基礎資料として活用されているとの声が寄せられています。
ここで大事なのは、投資家がサステナビリティ情報を「一覧表」として読んでいるわけではない、という点です。
投資家が見ているのは、非財務情報そのものではなく、それがどのように企業価値につながるのかです。たとえば、人的資本の取り組みが生産性、離職率、顧客満足、成長事業の実行力にどう結びつくのか。脱炭素投資が、コスト増要因なのか、競争力強化の前提なのか。マテリアリティが、経営会議や取締役会でどう扱われているのか。
つまり、2026年の統合報告書では、「取り組んでいます」では足りません。
投資家が知りたいのは、取り組みの存在ではなく、その取り組みが経営のどこに効いているのかです。価値創造プロセス、マテリアリティ、KPI、財務戦略が別々のページに置かれているだけでは、企業価値との接続は伝わりにくくなります。
もう一つ注目すべきしたい結果があります。
機関投資家との対話によって、直近1年間で自社の行動変化につながった事例があると回答した企業は、8割を超えました。具体的には、情報開示の改善、経営戦略、資本コストや株価を意識した経営、コーポレート・ガバナンス、サステナビリティ課題などが挙げられています。
これは、統合報告書にとって大きな意味を持ちます。
これまで多くの統合報告書では、「投資家と対話しています」「対話内容を経営陣に共有しています」といった記載が一般的でした。しかし、今後はその一歩先が問われます。
すなわち、
対話によって何を受け止め、何を議論し、何を変えたのか。
たとえば、投資家から資本配分の具体性を求められた結果、中期経営計画で成長領域への投資額や資本配分方針を明示した。
社外取締役との対話要請を受け、取締役会の実効性やサクセッション、報酬制度について説明の場を設けた。
気候変動や人的資本に関する質問を踏まえ、KPIやロードマップの開示を見直した。
こうした変化は、統合報告書において非常に重要な情報になります。
なぜなら、それは企業が資本市場からの問いを受け止め、経営に反映する力を持っていることの証拠だからです。
2026年版の統合報告書制作で意識したいのは、ページ構成上の統合ではなく、経営の実質としての統合です。
SSBJ基準への対応、資本コストや株価を意識した経営、人的資本、気候変動、社外取締役との対話、ESG評価対応。これらは別々のテーマに見えます。しかし、投資家の視点から見れば、いずれも中長期的な企業価値をどう高めるかという一つの問いにつながっています。
したがって、統合報告書制作担当者さまが確認すべきポイントは、次のようなものになると考えます。
第一に、サステナビリティKPIが、経営戦略や財務成果と結びついているか。
第二に、資本配分やROICの議論が、事業戦略や非財務資本の説明と分断されていないか。
第三に、投資家との対話が、単なる活動実績ではなく、経営の改善プロセスとして語られているか。
第四に、社外取締役のページが略歴紹介にとどまらず、監督の中身を示しているか。
第五に、制度開示である有価証券報告書と、任意開示である統合報告書の役割分担が明確になっているか。
統合報告書は、企業をよく見せるための冊子ではありません。むしろ、投資家からの問いに耐え、経営がどのように前に進んでいるかを示す媒体です。
GPIFの今回のアンケートから見えてくるのは、統合報告書がすでに「読まれる資料」になっているということです。そして、読まれているからこそ、そこに書かれたストーリーは、投資家との対話を生み、場合によっては経営そのものを動かします。
2026年の統合報告書に求められるのは、きれいにまとまった説明ではなく、問いに開かれた説明であると考えます。
自社は何を重視しているのか。どこに課題が残っているのか。投資家との対話を通じて何を変えたのか。そして、その変化は将来の企業価値にどうつながるのか。
その道筋を示すことができれば、統合報告書は単なる年次の制作物ではなく、資本市場との関係を深めるための実践的なツールになり得るのではないでしょうか。
ーーー
今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。