統合報告書やIR資料に、キャッシュアロケーション図を載せる企業が増えています。
営業キャッシュフローを原資に、設備投資・研究開発・M&A・人的資本投資・株主還元へどう配分するか。中期経営計画と合わせて複数年の配分を示す例も多く、成長のための投資と株主への還元をどう両立させるかは、投資家との対話でも繰り返し問われてきた論点です。
その全体像を一枚で示し、資本配分の方針を説明する開示は、資本コストや資本効率への関心の高まりとともに、近年、特に目立つようになりました。
図の一区画に置かれるのが「成長投資」で、ここには設備投資・研究開発・人的資本投資といった複数の支出が合算されて示されるのが一般的です。
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この「成長投資」という言葉を、経済産業省の「成長投資ガイダンス(案)」が改めて定義しています。
産業構造審議会・経済産業政策新機軸部会の価値創造経営小委員会 第9回(5月27日開催)で提示されたもので、7月上旬の正式公表をめざすとされます。
10年余り続くコーポレートガバナンス改革を一段先へ進める位置づけで、同日の日経朝刊も「企業評価、成長投資も重視」「価値向上へ『足し算』の経営」と、株主還元への傾斜を是正する文脈で2本の記事を載せました。
定着したROEに加え、資本コストを織り込んだ指標を企業価値評価の軸に据える点が、案の特徴です。
(資料はエグゼクティブ・サマリーだけで11ページ、本編68ページ、別途データ集31ページに及ぶ分量です)
ガイダンス案を読むと、「成長投資」と「価値創造」は、別のレイヤーの概念として書き分けられています。
中核に置かれているのは「価値創造」です。
企業が事業活動を通じて、資本コストを上回るリターンを継続的に生み出すこと自体を指し、その規模を積分的に捉える参照軸としてEP(エコノミック・プロフィット)が用いられています。
EPはNOPAT−WACC×投下資本、すなわち投下資本×(ROIC−WACC)で表されます。一方の「成長投資」は、設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資のうち、将来の成長に資するものを指します。
つまり。成長投資は価値創造を拡大する手段の一つではありますが、それ自体が価値創造を意味するわけではない、というのがガイダンスの整理です。両者はレイヤーが異なります。
なお、ガイダンス案は、価値創造(EP)を拡大する視点として、3つを挙げています。
成長投資はこのうち投下資本の拡大に関わりますが、本文(3.1.5.1)には「資本コストを上回るリターンが見込まれる投資機会」への配分、という条件節が付いています。
さらにガイダンスのいう「大胆な成長投資」とは、単年度の投資額の増減ではなく、重点領域へ複数年にわたり資本を供給し続けること(3.1.5.2)とされ、設備・研究開発・人件費に計上される支出の総額を増やすこととは区別されています。
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もう一つ、本文には「足す前に引く」側の記述があります。
分析対象の日本企業では、価値毀損セグメントへの資本投入が全体の約6割を超え、価値創造セグメントが生み出した価値を相殺する構造になっているとされます(2.1.2)。
そこでガイダンスは、自社がベストオーナーでない事業については事業譲渡を含めて移転の選択肢を検討するベストオーナー原則(3.1.4)と、取締役会による「良い赤字/悪い赤字」の峻別(3.3.2)を挙げています。
短期的な業績悪化だけを理由に成長投資を萎縮させず、投資後は計画との乖離を検証して軌道修正する、という規律づけも併せて示されています。価値毀損セグメントからの資本の引き揚げと、価値が見込める領域への再配分を、足し算と対になるものとして描いているわけです。
改訂コーポレートガバナンス・コード原則4-1も、成長投資や事業ポートフォリオの見直しに関し、具体的に何を実行するのかの説明を求めています。
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成長投資ガイダンス案には、EP・ROIC・ROEの使い分け、事業ポートフォリオ転換の実務、取締役会の監督機能、投資家側のエンゲージメントの実質化など、なお多くの論点が残されています。
キャッシュアロケーション図に置かれた「成長投資」の区画は、ガイダンス案のこの書き分けのどこに対応するのか。同じ言葉が、紙面・開示資料・予算編成のどの段階を経ても、同じ意味のまま置かれているのか。確かめる手がかりは、本文の側に並んでいます。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。