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脱炭素の「進め方」のほうを——OECDがJust Transition(公正な移行)について企業向けに出した50ページ

人権 / 脱炭素

工場を一つ閉じる。あるサプライヤーとの取引を、Scope 3の数字を理由に見直す。事業を別の会社へ売る。どれも「脱炭素を進めるため」と説明できてしまう動きです。

けれど、その先には、職を失う人、産業が一つしかない地域、価格転嫁を受ける消費者がいます。

 

OECDが2026年5月20日に公表した報告書 Responsible Business Conduct for a Just Transition(全50ページ)は、この「進め方」のほうを正面から扱っています(注1)。開示基準ではなく、企業が政策・実務を設計するための「資源」だと、OECD自身が位置づけている点が、まず押さえどころです。

 

何が動いたのか

公正な移行(Just Transition)という言葉は、もともと労働・ディーセントワーク・社会対話の文脈で育ちました。

ILOの2015年ガイドラインも、パリ協定前文も、中心語は「労働者」「雇用」です。UNFCCCの作業計画では議題がエネルギー・社会保護・地域へと広がってきましたが、軸足は政府の政策に置かれていました。

今回のOECD報告書は、その重心を一段ずらしています。

公正な移行を、政府が設計する政策の話から、企業が責任ある事業行動(RBC)として実装する話へ。射程も、労働者だけでなく、地域社会、先住民族、サプライヤー、そしてエネルギーや基本財へのアクセス・価格に影響を受ける消費者まで広げています。

 

座標を二つ

一つは「場所」です。

報告書は、自社の事業所単体を見るだけでは足りず、複数の企業が同時に撤退・投資することで生まれる地域・産業全体の累積影響を見よ、と言います。単一産業に依存し、社会保護の薄い地域ほど打撃が大きい、という見立てです。

もう一つは「責任ある撤退」。

新しさが集中しているのはここです。

脱炭素を急ぐあまり、改善余地を確かめずにサプライヤーを切り、資産を基準の低い事業者へ売れば、影響はむしろ増幅しかねない——離脱は最後の手段、という整理になっています。報告書が引く横断分析(399社)では、公正な移行を「部分的に計画している」企業は6%、完全実装はゼロだったという数字も添えられています(注2)。
評価の物差しが、「排出を減らしたか」に加えて「誰に、どうコストを移したか」へ一つ増える。そう読むと、この報告書の置き場所が見えてきます。

既存の開示基準(ISSB、ESRS、GRIなど)とどこで重なるのかは、また別の地図の話になりそうです。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


(注1)OECD (2026) Responsible Business Conduct for a Just Transition: Protecting Workers, Communities and Consumers in the Low-Carbon Transition, OECD Publishing, Paris. DOI: 10.1787/ea041d32-en

(注2)同報告書および関連資料による。

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