サステナビリティレポート / サステナ開示をめぐる動向 / 統合報告書
2026年5月18日、金融庁の金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」第5回会合の資料が公表されました。
今回の大きな論点は、有価証券報告書の記載事項をどう見直すか、という点です。
近年、有価証券報告書では、サステナビリティ、人的資本、コーポレートガバナンスなど、非財務情報の開示が大きく拡充されてきました。さらに今後は、SSBJ基準に基づくサステナビリティ開示も、有価証券報告書に段階的に取り込まれていきます。
一方で、企業側から見ると、有価証券報告書、事業報告、コーポレートガバナンス報告書、統合報告書、サステナビリティレポートなど、複数の媒体に類似情報を記載する負担が増えています。投資家側から見ても、情報が分散し、どこを見れば全体像がわかるのかが見えにくくなっている面があります。
今回の資料は、このような状況を踏まえ、制度開示と任意開示の役割分担を改めて整理していく動きとして読むことができます。
参考:金融庁「ディスクロージャーワーキング・グループ」第5回会合資料(事務局説明資料を参照)
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclosure_wg/shiryou/20260518.html
この流れのなか、
統合報告書の役割はより明確になっていくと私は考えています。
これまで統合報告書は、制度開示では伝えきれない企業の価値創造ストーリーを補う媒体として発展してきました。財務情報、非財務情報、経営戦略、人的資本、サステナビリティ、ガバナンスを一冊にまとめ、企業の全体像を伝える役割を担ってきたといえます。
しかし、今後は単に情報を網羅するだけでは、かえって有価証券報告書やサステナビリティレポートとの重複が目立つ可能性があります。
統合報告書に求められるのは、情報量ではなく、情報同士の「つながり」です。
たとえば、人的資本への投資がどの事業の成長に結びつくのか。脱炭素対応がコストなのか、競争条件なのか、新たな収益機会なのか。取締役会の議論が、資本配分や事業ポートフォリオの見直しにどう反映されているのか。
こうした関係性を、読者が理解できるように編集することが、今後の統合報告書の中心的な役割になると考えられます。
一方、サステナビリティレポートの役割も変わっていきます。
今後、有価証券報告書にSSBJ基準に基づく情報が入っていくと、サステナビリティに関する重要情報の一部は、制度開示の枠内で記載されることになります。
そのため、サステナビリティレポートは、制度開示と同じ内容を繰り返す媒体ではなく、制度開示を補完する「根拠と詳細」の受け皿として位置づける必要があります。
具体的には、GHG排出量、Scope 1・2・3、環境データ、人的資本関連KPI、労働安全衛生、サプライチェーン、人権、ダイバーシティ、生物多様性などの定量情報や個別方針を体系的に整理する媒体です。
また、ESG評価機関、顧客、取引先、金融機関、NGOなど、投資家以外のステークホルダーが確認したい情報を置く場所としての意味も大きくなります。
したがって、サステナビリティレポートは今後、物語性よりもデータの整合性、網羅性、検索性、比較可能性がより強く求められることになっていくでしょう。
今回の動きから、統合報告書やサステナビリティレポートの制作担当者にとって重要になるのは、「今年の冊子をどう作るか」だけではありません。
有価証券報告書、統合報告書、サステナビリティレポート、コーポレートガバナンス報告書、ウェブサイトの間で、どの情報をどこに置くのかを設計することです。
今後は、次のような整理がより重要になると考えられます。
有価証券報告書は、制度開示として責任ある情報を置く媒体。
統合報告書は、財務・非財務、戦略・リスク・ガバナンスのつながりを見せる媒体。
サステナビリティレポートは、定量情報や個別テーマの詳細を整理する媒体。
この役割分担を明確にしないまま制作を続けると、丁寧に情報を載せているつもりでも、読者からは「重複が多い」「全体像が見えにくい」と受け止められる可能性があります。
統合報告書に求められるのは「量」ではなく「接続」。
サステナビリティレポートに求められるのは「物語」ではなく「根拠」。
今回の金融庁資料は、そうした開示媒体の再設計を促す動きとして押さえておきたい内容でした。
ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。