統合報告書の人的資本ページが、いつのまにか厚みを増している、という感覚は珍しくないように思います。女性管理職比率、男女賃金差異、研修時間、エンゲージメントスコア、離職率——指標は揃っているのに、ページを通読すると残るものが少ない、という声も現場では聞きます。
そうしたなか、2026年3月、内閣官房・金融庁・経済産業省が連名で、「経営戦略と人材戦略の連動及びそれを踏まえた指標の開示事例」(人的資本可視化指針 改訂版 付録①)を公表しました。
10社の開示事例を収録した資料です。
付録①が組んでいるのは、シンプルな三段構造です。各社につき、まず①企業の中長期的な成長・企業価値向上に向けた「経営戦略」、次に②経営戦略の実現のための「人材戦略」、そして③人材戦略の進捗状況をモニタリングするための「指標及び目標」が並びます。
経営戦略から人材戦略へ、人材戦略から指標へ、という順序で各社の開示を整理し直す、という構成です。指標から事業を遡って語るのではなく、戦略を起点に指標までを一本の線でつなぐ並べ方になっています。
各社の事例は、もう一つの軸でも分類されています。Composition(従業員構成)、Capability(能力・スキル)、Conditions(労働・職場環境)の三観点です。
それぞれ、最適な従業員構成が実現できているか、戦略実現に必要なスキルを備えているか、必要な人材を確保・維持できる労働環境か——という問いに対応する区分です。
この三観点について、付録①の脚注は、ISSBが2025年10月時点で人的資本に関するリサーチ・プロジェクトで検討している内容を参考にした、と記しています。国内向けの開示事例集でありながら、参照している分類の枠は、国際基準設定の検討状況を取り込んでいる、という位置づけになります。
掲載は、味の素、カプコン、中外製薬、デンソー、富士通、九州フィナンシャルグループ、SCSK、SHIFT、双日、東京海上ホールディングスの10社。食品、ゲーム、製薬、自動車部品、IT、金融、商社と、業種は広く取られています。
各社の経営戦略のテーマも、事業モデル変革、開発体制の拡充、専門人財の確保、人財ポートフォリオ変革、リスキリングの強化、ソリューション事業の拡大、現地人材の活用など、それぞれ異なる切り口になっています。
付録①は、人的資本開示の整理の仕方を一つ示しています。経営戦略を起点に、人材戦略、指標へと降りていく三段構造。それを横切るC/C/Cの三観点。10社の事例は、この整理のなかに位置づけられています。
もっとも、整理の仕方は一つに限られるわけではありません。この三段構造で整理し切れる人的資本の論点はどこまでで、整理から漏れるものは何か——その問いは、事例集を読み終えたあとも残ります。
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当 :川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。