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監査役会の記述を「開催回数」で終わらせないために ~監査役協会の資料にみる統合報告書へのヒント~

ガバナンス / コーポレート・ガバナンス

日本監査役協会は2026年4月28日、初心者向け資料「図解で知る監査役の役割」を公表しました。

 

この資料は、監査役とは何か、取締役や内部監査部門、会計監査人とは何が違うのかを、図解形式でわかりやすく説明したものです。

企業法務やガバナンスの専門家向けというよりも、監査役制度に詳しくない人にも基本的な役割が伝わるように作成されています。

 

一見すると、統合報告書の実務とは少し距離がある資料に見えるかもしれません。
しかし、統合報告書で監査役会の活動をどう説明するかを考えるうえでは、参考になるポイントがあります。

 

特に重要なのは、監査役会の記述を「開催回数」「出席率」「監査方針」だけで終わらせず、企業価値を支えるガバナンスの仕組みとして説明するためのヒントが含まれている点だと思います。

 

① 監査役を「企業価値毀損を防ぐ存在」として描く

統合報告書では、取締役会の実効性や社外取締役の役割については詳しく説明される一方、監査役会については、比較的定型的な記述にとどまるケースも少なくありません。

たとえば、監査役会の開催回数、各監査役の出席状況、会計監査人や内部監査部門との連携状況などです。もちろん、これらは必要な情報です。ただし、それだけでは、監査役会が企業価値にどのように関わっているのかは見えにくくなります。

 

今回の資料では、監査役の役割を単なる法令遵守の確認にとどめず、不祥事やリスクの兆候を早期に把握し、重大化を防ぐ存在として説明しています。

これは統合報告書の文脈では、非常に重要な視点です。

監査役会は、企業価値を直接的に「伸ばす」機関というよりも、企業価値の毀損を防ぐ役割を担っています。品質不正、会計不正、労務問題、子会社管理の不備、内部通報の機能不全などは、いずれも企業価値を大きく損なう要因になり得ます。

したがって、統合報告書では、監査役会を「守りのガバナンス」として形式的に紹介するだけでなく、企業価値毀損を防ぐ仕組みの一部として位置づけることが考えられます。

たとえば、次のような観点です。

監査役会は、法令遵守や会計の適正性に加え、品質、労務、内部通報、子会社管理等に関するリスクの兆候を把握し、取締役会・経営陣への意見具申を通じて、企業価値の毀損防止に貢献している。

 

このように説明することで、監査役会の活動は、単なる制度説明ではなく、価値創造を支えるガバナンスの一部として読者に伝わりやすくなります。

 

② 現場往査を「リスクの芽を確認する活動」として説明する

資料では、監査役が本社だけでなく、事業所、支店、工場、子会社などを訪問し、現場の状況を確認することにも触れています。

 

統合報告書でも、「監査役は国内外の拠点を往査しました」「子会社往査を実施しました」といった記述はよく見られます。ただし、往査件数や訪問先だけを記載しても、読者にはその意味が十分に伝わらないことがあります。

 

重要なのは、現場往査が何を確認するための活動なのかを説明することです。

たとえば、製造業であれば品質管理や安全衛生、在庫管理、サプライチェーン上のリスクが重要になります。小売業やサービス業であれば、店舗運営、労務管理、顧客対応、ハラスメント防止などが焦点になるかもしれません。グループ経営を行う企業であれば、子会社管理や海外拠点の内部統制も重要です。

つまり、往査は単なる現場視察ではありません。経営陣による管理・監督が現場まで届いているか、リスクの兆候が見逃されていないかを確認する活動です。

統合報告書では、次のような書き方が考えられます。

監査役は、事業所・工場・子会社への往査を通じて、品質管理、労務管理、在庫管理、内部通報制度の運用状況等を確認しています。これにより、現場におけるリスクの兆候を把握するとともに、経営陣による管理・監督が有効に機能しているかを検証しています。

 

このように、往査の対象と目的を結びつけて説明することで、活動量の報告から一歩進んだ、実効性のあるガバナンス説明になります。

 

③ 三様監査を「リスク情報の流れ」として見せる

資料では、監査役、内部監査部門、会計監査人の違いについても説明されています。

統合報告書では、これら三者の連携について「定期的に情報交換を行っています」「三様監査の連携を強化しています」といった表現が使われることがあります。

 

ただし、「連携しています」だけでは、読者には何が連携されているのかが見えません。

統合報告書で伝えるべきなのは、会議を開催している事実だけではなく、どのようなリスク情報が、どの経路で集約され、どのように取締役会や経営陣にフィードバックされているのかです。

内部監査部門は、業務プロセス、内部統制、情報システム、コンプライアンスなど、社内の業務運営に関するリスクを把握します。会計監査人は、財務報告や会計処理、内部統制上の重要な論点を確認します。監査役は、それらの情報を踏まえながら、取締役の職務執行や経営管理体制を監査します。

 

この関係を、単なる「三者の連携」ではなく、「リスク情報の流れ」として見せることがポイントです。

たとえば、次のような記述が考えられます。

監査役会は、内部監査部門から業務プロセス、内部統制、情報セキュリティ等に関する監査結果の報告を受けるとともに、会計監査人から会計監査上の重要論点や内部統制上の課題について説明を受けています。これらの情報を踏まえ、監査役は取締役会や経営陣との対話を通じて、リスク管理体制の実効性を確認しています。

 

このように書くと、三様監査は単なる制度上の説明ではなく、企業のリスク管理を支える情報連携の仕組みとして伝わります。

 

統合報告書で見直したいポイント

今回の資料は初心者向けに作成されたものですが、統合報告書担当者にとっては、監査役会の記述を見直すための補助線として活用できます。

特に、次のような観点で自社の記述を点検できそうです。

 

第一に、監査役会の活動が、企業価値の毀損防止と結びついて説明されているか。

第二に、現場往査や子会社往査が、単なる活動実績ではなく、どのリスクを確認するための活動なのかが示されているか。

第三に、内部監査部門や会計監査人との連携が、「情報交換を行っている」という一般的な説明にとどまらず、どのようなリスク情報が共有され、経営にどう活かされているかまで説明されているか。

 

 

監査役会の活動は、どうしても制度説明になりがちな領域です。
しかし、統合報告書の読者が知りたいのは、制度が存在していることだけではありません。その制度が、企業価値の維持・向上にどのように機能しているのかです。

今回の資料は、監査役の役割を基本から整理したものですが、だからこそ、統合報告書でありがちな硬い説明をほぐすきっかけになります。

監査役会の記述を「開催回数」で終わらせず、企業価値を支えるガバナンスの一部としてどう見せるか。
統合報告書担当者にとって、改めて考える価値のある資料と考えます。

ご参考になりましたら幸いです。

 

執筆担当:川上 佳子

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