4月16日、議決権行使助言大手のGlass Lewisが、新しい気候分析サービス「Climate Intelligence」の立ち上げを公表しました。
約4,000社を対象に、低炭素移行のなかで各社がどれだけ企業価値を維持・創出できるかを、財務的マテリアリティとフォワードルッキングな視点から評価するものです。
このニュースで注目に値するのは、Glass Lewis自身が既存の気候分析ツールへの明確な問題提起から話を始めていることだと思います。
公表文書では「既存ツールの多くは、排出量、ネットゼロ整合性、シナリオ分析など後ろ向きの指標に依存しており、移行過程で企業がどう業績を出すかを十分には見通せない」と指摘しています。
そのうえでClimate Intelligenceは、企業の戦略と実行を明確に分けて見て、「その移行計画は信頼できるか、実行可能か、投資対象として成立するか」を問う設計だとしています。
設計上の特徴として、評価の単位が企業全体の抽象的な宣言ではなく、実際の事業ポートフォリオや基礎的な事業活動に置かれている点が挙げられます。
移行リスクと機会を事業活動レベルで分析し、その結果を成長率、利益率、資本配分、長期リターンといった価値創造ドライバーにつなげる構造です。
つまり「排出量が多いか少ないか」よりも、「この会社は移行期の経済環境のなかで、どの事業で稼ぎ、どこに投資し、どう利益を守るのか」を見にいく分析です。
AIの位置づけも強調されています。
専門家が分析枠組み・ロジック・必要証拠を定め、その中でAIを使い、途中でクロスチェックとアナリストレビューを行う「controlled research process」だとされています。
AIで大量処理しつつ、判断の信頼性は人が担保する、という説明です。
対象市場について、Glass Lewisは欧州、カナダ、オーストラリアのような、気候関連リスク・機会が投資判断やスチュワードシップに組み込まれている市場での活用を想定していると述べています。
議決権行使やエンゲージメントと接続しやすい形で使われることを意識した設計です。
Proxy Advisor業界のもう一方の大手であるISSの動きを並べてみると、両社の戦略の違いが見えてきます。
ISSも2025年7月に国債ポートフォリオ向けのSovereign Climate Impact Report、10月に不動産ポートフォリオ向けのReal Asset Climate Solutionsを相次いで投入しており、気候関連インフラの拡充を続けています。
ただしISSの路線は、排出量・シナリオ整合・物理リスクといった素材データの拡充と、ポートフォリオ・アセット単位の分析に寄っています。
議決権行使ポリシーとしても、ISSは高排出企業の取締役会に対象を絞った気候監督責任評価を行っています。
これに対しGlass Lewisの今回の発表は、データの拡充ではなく、「企業の移行戦略の質と実行能力を、投資対象として成立するかの観点から評価する判断フレーム」そのものを提供しようとする動きです。
同じ業界の二社が、気候領域で異なる位置取りを選んでいることがわかります。
この動きを読むうえで、Proxy Advisor業界全体が2025年秋以降、かなり強い逆風のなかにあることにも触れておく必要があります。米国FTCはISSとGlass Lewisを反トラスト調査の対象とし、2025年12月には大統領令がProxy Advisor規制の再評価を求めました。2026年1月にはJPMorganが、主要運用機関として初めてProxy Advisorの使用を全面停止し、AIツールに移行すると発表しています。
Glass Lewisの「Climate Intelligence」は、こうした業界逆風のなかで公表されています。議決権推奨という従来ビジネスへの圧力が高まるなかで、判断支援の精度を売る会社へと自らを再定義しようとしている動き、とも読めます。
気候評価の重心が「開示の有無」や「目標の立て方」から、「戦略の質」と「実行能力」へ移りつつあります。そしてその移動を牽引しているのが、開示基準主体や評価機関ではなく、議決権行使助言会社であるという事実は、それだけでかなり示唆的なニュースだと思います。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。