昨日(2026年4月15日)、日本経済新聞「私見卓見」欄に寄稿した「自然資本リスクの議論を深めよ」が公開されました。
本日は、この記事の論点とその背景にある構造を、簡単にお伝えいたします。
2026年に予定されるコーポレートガバナンス・コード改訂。
議論の中心は、資本配分の最適化です。
企業が保有する現預金を成長投資へ適切に振り向けているか。
人的資本や研究開発への投資がどう評価されるか。
ですが、資本配分を問うのであれば、環境リスクが財務に及ぼし得る影響も射程に入るはずです。
とりわけ水リスクや自然資本に関する領域は、多くの企業で財務やガバナンスの議論と十分に結びついていません。
欧州では水資源をサプライチェーンや食料安全保障と接続し、産業競争力のリスクとして整理する動きが進んでいます。
日本でも自然資本の問題をガバナンス改革の中核として再整理する必要があるのではないか──これが寄稿の問題提起です。
この問題提起の背景には、開示の現場で見える構造的な偏りがあります。
企業のTCFD開示で物理的リスクに「水」が登場するとき、書かれているのはほぼ洪水と豪雨です。
TCFD最終報告書には水資源の量・水源・水質の変化が明記されていますが、渇水や水質劣化への言及はほとんど見当たりません。
GPIFの運用機関が選ぶ「優れたTCFD開示」事例(2025年1月公表)を確認しても、状況は同じでした。
要因の一つは、定量化インフラの偏在です。
2023年に国交省が洪水の定量化フローを整備し、国のハザードデータから浸水深の取得、想定被害額の算出までの一連の流れが使えるようになりました。
企業は洪水を「書けた」。しかし、水ストレスや水質には同等の基盤がありません。書けるものだけが書かれ、書けないものは抜け落ちます。
この構造はフレームワークが変わっても繰り返されます。
環境省の「気候変動の物理的リスク評価の手引き」(2026年3月)は水ストレスを対象に加えましたが、提供されているのはスクリーニングツールの紹介と考え方の整理までです。
洪水のような定量化フローは整備されていません。TNFDのLEAPアプローチでも、入手しやすい洪水ハザードマップが起点になりやすく、同じパターンが続いています。
ガバナンスの設計図にも目を向けると、4月10日公表のCGコード改訂案では、サイバーセキュリティや地政学的サプライチェーンリスクが考慮事項として初めて明記されました。
しかし、水リスクへの言及はありません。
定量化の枠組みや事例が蓄積されたリスクは制度の言葉になり、まだそこに至っていないリスクは制度の視界にも入りにくい。
開示の現場と同じ構造が、ここにも見えます。
足りないのは意識ではなく、インフラ。
次のCGコード改訂は、この風景をどう変えるでしょうか。
CGコードのパブリックコメントは、5月15日まで受け付けています。
私は今回、コメントを出してみるつもりです。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。