厚生労働省は3月5日、2018年に成立し、2019年4月から順次施行されてきた働き方改革関連法について、施行後5年の状況を把握するための総点検結果を公表しました。
今回の公表は、労働者を対象とするアンケート調査と、企業・労働者を対象とするヒアリング調査を踏まえて整理されたものです。
厚労省は今後、労働市場改革分科会や労働政策審議会における労働基準関係法制の議論につなげていく考えを示しています。
今回、特に注目を集めたのが、労働者3,000人へのアンケートです。
現在の労働時間を「増やしたい」と答えた人が10.5%いた、との結果が示されました。
一方で、「このままでよい」は59.5%、「減らしたい」は30.0%でした。
増やしたい理由としては、「たくさん稼ぎたいから」が41.6%で最も多く、
「自分のペースで仕事をしたいから」19.7%、
「所定労働時間以外の労働分の収入(残業代)がないと家計が厳しいから」15.6%が続いています。
もっとも、この10.5%という数字は、そのまま「長時間労働を望む人が増えている」と読むべきものではなさそうです。
3月6日の厚労大臣会見での説明によれば、この層の中心として、週所定労働時間35時間以下で年収200万円未満の層が約3.4%、週所定労働時間35時間超または年収200万円以上で上限規制(月80時間)の範囲内で増やしたい層が約4.9%と整理されています。
法定の上限規制を超えて労働時間を増やしたいとする層は約0.5%にとどまります。
なお、PDFの概要資料では週35時間以下・35時間超という別の軸でも内訳が示されており、会見での説明はこれらを組み合わせた区分となっています。
企業ヒアリングでも、同様に一筋縄ではいかない実態が見えています。
327社へのヒアリングでは、
「増やしたい」とした企業が53社あった一方、
「現状のままがいい」は201社、
「減らしたい」は73社でした。
増やしたい理由としては、
業務の性質・受注確保・人手不足・労働者の希望などが挙げられています。
一方、現状維持を選んだ企業からは、労働者の健康確保やワークライフバランス、人材確保・定着といった理由が多く挙げられており、規制緩和への単純な要望とは異なる声が混在していることが確認できます。
今回の公表は、「働き方改革の見直し」「残業規制の緩和」という文脈で受け取られやすい内容ですが、厚労省としては上限規制そのものの見直しを意味するものではなく、その範囲内での働き方のあり方を考える材料だという位置づけを示しています。
実務担当者さまにとって、まず押さえておきたいのは、「制度が変わるかどうか」ではなく、「労働時間をめぐるニーズがどのように分かれてきているか」という文脈です。
今回の総点検は、施行後5年の検証であると同時に、次の労働基準法制の議論へとつながる入口として位置づけられています。
ご参考となりましたら幸いです。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
参考にした一次情報
・厚生労働省「『働き方改革関連法施行後5年の総点検』の調査結果を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981_00060.html
・厚生労働省「働き方改革関連法施行後5年の総点検(結果概要)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001666752.pdf
・厚生労働大臣会見概要(2026年3月6日)
https://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/0000194708_00902.html
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。