3月12日、国際資本市場協会(ICMA)が、ESG評価機関およびESGデータプロバイダーをめぐる業界慣行の変化と今後の課題を整理した報告書を公表しました。
これは新しい規制でも、新しい行動規範でもありません。
2021年11月にIOSCO(証券監督者国際機構)がESG評価機関・データプロバイダーに向けた勧告を出して以降、市場がどう動いたか、どこまで進み、何がまだ残っているかを見渡すレビュー文書です。
一見すると、評価機関側のルール整備に関する話に見えるかもしれません。
ですが、今回の報告書がサステナビリティ担当者にとって気になるのは、ESG評価機関の透明性や規律づけが進むほど、企業の開示情報が「どう読まれるか」も、これまで以上に問われる構造が見えてくる点だと思います。
背景にある流れを、簡単に整理しておきます。
IOSCOは2021年、方法論の不透明さ、業種・地域カバレッジの偏り、コンサル兼業による利益相反、評価対象企業との対話不足などを課題として指摘しました。
これを受けて、英国FCAの任命のもとICMAが事務局を務める形で業界主導の行動規範が策定され、2023年12月に公表。公表後はICMAが所管しています。
日本、シンガポール、香港でも同様の任意コードが整備されました。
さらにEUでは、ESG Ratings Regulationが2024年11月にEU理事会で正式採択され、2025年1月に発効。
2026年7月2日から適用が始まります。英国やインドでも規制化が進んでおり、ESG評価の世界は、民間サービスの集積から、透明性と統制が問われる市場インフラへと移行しつつあります。
今回のICMA報告書の意味は、この「移行の途中」で、何が進み、何がまだ宙に浮いているかを可視化したことにあります。
そしてその整理は、評価機関だけでなく、企業開示が今後どのような前提で使われ、読み解かれていくのかを考える手がかりにもなっています。
ICMAが示した主な論点は4つです。
その1
ESG rating、score、data productの境界が実務上かなり曖昧になっていること。提供会社が商品群を広げ、投資家側も内製評価を作るなかで、どこまでを規制対象にするかが固まっていません。
その2
任意の行動規範と法規制の併存が続く見通しであること。特に、ESGデータ商品や、まだ規制が整っていない法域では、引き続き任意コードが参照されます。
その3
標準化された企業開示との関係です。
これは企業実務に最も近い論点かもしれません。
ICMAは、EUで標準化開示の対象縮小が進んだことで、逆に投資家がESG評価やデータ商品に依存する度合いが高まる可能性があると指摘しています。
制度開示が後退したから見られなくなるのではなく、別の目で、別の形で読まれる余地が大きくなるということを示しています。
その4
ESG評価の「収れん」か「多様性維持」か。評価間の低相関は前提・目的・手法の違いを反映しており、一概に問題とは言えないとしつつも、投資家側には尺度の比較可能性をもう少し高めてほしいという声があるとICMAは示しています。
また、ICMAの投資家調査では、E・S・Gの分解表示を有用と考える回答者が多く、リスク評価とインパクト評価は区別して透明に示して欲しいという声が目立ちました。
行動規範だけで十分な透明性が確保できると考える投資家は少数にとどまっています。
ここまでが、今回のICMA報告書が示した「座標」です。
評価機関の側に透明性や説明責任が求められるようになった。
それ自体は歓迎すべき流れです。
ただ、その動きが進むほど、企業側にも「自社の情報がどのような前提で、どのように切り分けられ、どう読まれうるか」を意識する必要が出てきます。
評価機関の話は、評価機関だけの話ではありません。
今回お示しした内容が、貴社の情報がどのように受け取られるのかを考える際の手がかりになれば幸いです。
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今週もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。