この記事の3つのポイント
コメダ珈琲店でミックスサンドを注文すると、いつも少し驚きます。
写真で見るよりも、ボリュームたっぷり。
ふわふわの山型食パンのダブルデッカー。
たまごペースト、ハム、きゅうり、レタス。
素材は王道なのに、量のバランスが想像をほんの少し上回る。
いわゆる「逆写真詐欺*1」とSNSで話題になる現象ですが、
実はこの構造、資本市場が企業を評価するときのロジックと、とてもよく似ています。
食べながら、ふと思いました。
これは単なるサービス精神ではなく、期待値の精巧な設計なのではないか。
そしてこの構造は、
非財務情報の開示にも、そのまま当てはまるのではないか。
本日のブログでは、そんなお話をしたいと思います。
IR担当者の方なら、一度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。
投資家はサプライズを嫌う
という言葉を。
ですが、それが「たとえポジティブサプライズであっても」嫌われる、と聞くと、さすがに少し意外に思われるかもしれません。
——予想よりも業績がよかったのなら、それは嬉しいことなんじゃないの? と。
企業が突然、市場予想を大幅に上回る数字を出したとき、最初の反応は「すごい」ではなく「なぜこんな数字が出たのか?」になるといいます。
なぜなら、市場が本当に好むのは、サプライズではなく予測可能性だから。
そして理想とされるのは——予測より、少し良い結果です。
これって、ある意味、コメダの構造と、まったく同じなのです。
写真より、少し良い。
期待より、少し良い。
人の満足度を最も高めるのは、どうやらこの「少し」のようです*2。
とはいえ、この「期待値の設計」は、地域によって形が少し違います。
日本企業は期初に業績予想を開示し、途中で上方・下方修正を行います。
米国企業は四半期ごとにガイダンスのレンジ(範囲)を示し、それをわずかに上回ることが理想とされます。
どちらも共通しているのは、市場の予測モデルを壊さないという発想です。
ところが欧州には、そもそも業績ガイダンスを出さない企業が多くあります。
短期利益の予測よりも、長期の戦略や事業構造を重視する文化があるからだと言われています。
では、ガイダンスがなければ、投資家はどうやって企業の将来を読むのでしょうか。
ここで重要になるのが、非財務情報です。
探偵もののドラマや漫画で、こんなシーンを見たことはありませんか?
ある人物が本当にそこに住んでいるかを確認するために、アパートの外にある水道メーターをチェックする、といったシーンを。
これは、捜査対象の「生活の痕跡」を見ています。
そして、投資家が企業を見るときも、これに少し似た視点があるように思います。
企業が語る将来計画だけでなく、実際の活動の痕跡——設備投資の内訳、エネルギー使用量の推移、人材構成の変化、サプライチェーンの構造——を読もうとする。
Scope3などは、その典型ではないでしょうか。
サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量は、企業がどこで価値を生み、どこに依存しているかを映し出します。いわば企業の「水道メーター」です。
TCFDやTNFDが求める開示の背景には、こうした投資家の視点もあると思います。企業の言葉だけでなく、活動の痕跡そのものを見たい、という要請があるように思います。
このような「読み手の期待」を踏まえて企業様の開示を拝見していると、時々、気になるものに出会うことがあります。
少し乱暴にたとえるならば、写真「だけ」が立派なメニューのようなもの——
つまり、実物を見た瞬間に、信頼が少し揺らいでしまうような。
では逆に、開示が「実物より少し上回る」状態とはどういうことでしょうか。
投資家がモデルに組み込んだ前提を、実績がほんの少し超えていく。
それが積み重なって初めて、非財務情報は「予測の根拠」として財務情報と並ぶ存在になっていくのではないかと思います。
写真より少し大きいサンドイッチは、「盛った写真」の対極にあります。
あれは、信頼の設計です。
非財務開示も同じ構造で機能したとき、投資家との対話の質が少し変わるように思います。
御社の開示は今、「写真」と「実物」のどちらに近いでしょうか。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 写真(メニュー表)などと比べて実際の物が大きすぎる、優れていること。(出典:ピクシブ百科事典)
*2 ある経営者は「業績予想は最低2回上方修正せよ」と語ったそうですが…これは日本の資本市場が好む期待値に即した設計という意味では、大変的を射ていたとは言えそうです。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。