この記事の3つのポイント
この基準額が設定されたのは、1984年。
約40年間、据え置きでした。
その間、物価は上がり、コンビニのランチは600円を超え、社員食堂で食べる意味は相対的に薄れていきました。
ところが最近、この流れが逆転しつつあります。
今朝の日経電子版ではこのように報じられています。
企業が従業員に払う各種手当に関する税優遇も拡充される。
食事補助を一定額まで給与に含めず、所得税を非課税にできる制度は4月から限度額を月7500円と現状より4000円高くする。深夜勤務者の夜食代補助の限度額も1回あたり300円から650円に引き上げる。
出典:日経電子版「インフレ下、課税減免拡大 26年度改正」(2026年3月9日)
政府が社食補助の非課税枠を月7500円へ引き上げる調整に入っていた頃、日経にはこんな記事が出ていました。
参考記事:日経電子版「給食大手のエームサービス社長『社食が企業の人材獲得の柱に』」(2026年1月25日)
三井物産傘下でオフィスや工場の食堂約3500カ所を運営するエームサービスの社長は、こう語っています。
「人的資本経営への関心が高まり、企業が社員食堂を『福利厚生』や『人材獲得』の柱の一つとして重視している。」
「周りに飲食店が少ない地方工場では社員食堂の有無が人材獲得においても影響する」
社食は、単に「コンビニより安く食べられる場所」ではなくなっています。
採用競争力を左右する、非財務的な投資として位置づけられ始めているのです。
社食補助の見直しが40年ぶりに実現した背景には、定期昇給やベースアップに続く「第3の賃上げ」として政府が福利厚生の拡充を後押しする方向に動いたことがあります。
ただ、もうひとつ見落とせない背景があります。
企業が社食を人材獲得の武器として使い始めたという現実です。
需要が生まれたから、制度が動いた。
税制の変化は、企業行動の変化を後追いしているとも言えます。
企業は今、社食に本気で投資しています。
空間設計からメニュー開発、アプリによる利便性向上まで。
その投資が採用力・定着率・社員満足度に影響すると、行動で示しています。
ですが、その投資が人的資本開示の文脈で十分に語られているかといえば、現状、そうではありません。
ISO 30414等の人的資本開示の項目には、エンゲージメントや研修時間、離職率といった指標が並びます。「社員がどこで、どんな環境で食事をとっているか」は、対象外です。
ですが、採用面接で「うちの社食はこうです」と説明する企業が増えているなら、それはすでに人的資本の一部として機能しているということです。
見えているのに、測られていない。
測られていないから、開示されない。
開示フレームワークが「目に見えないもの」を可視化しようとしている一方で、「目に見えているもの」の一部は、まだ枠の外に置かれたままです。
御社は、社員の「食べる場所」に投資していますか。
しているなら、それを開示していますか。
人材獲得に直結する投資が、開示の枠の外に置かれ続けているとしたら、それは機会損失かもしれません。
「第3の賃上げ」と呼ばれる社食投資が広がるいま、人的資本開示の「次の論点」として、一度考えてみる価値があると思っています。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。