サステナ社内浸透 / サステナ開示をめぐる動向 / 勉強用(初学者様向け) / 開示基準等
この記事の3つのポイント
昨日のブログ冒頭で「コネクティビティ」と書いたところ、ご質問をいただきました。
「コネクティビティって、“財務への接続”だけのことを指しているんじゃないの?」
この問い、すごく大事です。
というのも、ここで誤解が起きると、SSBJ対応(あるいはISSB対応)が現実味を帯びてきたときに、社内でいちばん起きやすい“ある現象”が発生するからです。
私はそれを、野球でいうところの「お見合い」だと思っています。
財務・経理はサステナがわからず、サステナは財務が苦手。
どちらも悪くないのに、フライが落ちる。
誰も取りにいけない。
その結果、「コネクティビティ?それは向こうの部署の話ですよね」となって、開示の骨格がいつまでも固まらない――といった現象が起きかねない・・・
本日のブログでは、この“お見合い”をほどくためにコネクティビティを「財務接続だけ」と思い込むことの落とし穴と、サステナビリティ担当者さまが明日からできる現実的な第一歩を整理してみたいと思います。
最初にお伝えしたいのは、
コネクティビティが「財務っぽい言葉」に見えてしまうのは、
担当者さまの理解不足ではなく、制度側の言い方のせいでもある
ということです。
ISSB/SSBJは、投資家を主な想定読者として、「意思決定に有用な情報」を目標に置いています。するとどうしても、話が「財務影響」に寄って見えます。 ここまでは、仕方がありません。
ただ、ここで起きがちな誤変換があります。
コネクティビティとは、財務数値に落とすこと
→ 財務数値は、経理や財務、IRの仕事
→ よって、自分(サステナ担当)には関係ない/無理
この三段跳びが起きた瞬間、社内の空気は固まります。
そして「お見合い」が始まります。
コネクティビティは「財務への接続“だけ”」ではありません。
財務接続は“重要な接点のひとつ”ではありますが、「入口」ではありません。
(どちらかといえば、「合流点」)
入口で求められているのは、もう少し別のことです。
私が、実務の場でコネクティビティを説明するならば、こう言い換えます。
「この開示は、ひとつの設計図として読めますか?」
家の設計図は、眺めると全体の構造がわかります。
部屋の配置も、水道管も、電気配線も、非常口も。
個々のパーツが点在しているだけではなく、つながって見えますよね。
サステナ開示も同じです。
- リスク(何が起きるのか)
- 依存(なぜそれが起きるのか)
- 施策(どう備えるのか)
- 指標・目標(どこまで進んだら“備えた”と言えるのか)
- ガバナンス(誰が判断し、どの会議で意思決定するのか)
これらが、同じ因果と同じ前提で読める状態が、必要です。
財務数値に落とす前に、「話がつながっている」こと。
ここが最初のコネクティビティです。
サステナ担当者さまが「無理」と感じるのは、たいてい能力の問題ではありません。
翻訳の順序が逆だから、難しく見えるだと思います。
「財務の接続」をやろうとすると、こういった言葉が出てきます。
「どのリスクが、どれだけ財務に影響しますか?」
「その影響額は、いつ、どの科目に出ますか?」
「見積りや引当の前提は?」
…これ、胃が痛くなりますよね。
しかも、社内に“答えを持っている万能のひと”がいるわけでもないのだとしたら、なおさら。
だからこそ、ここでは順序を変えるのが有効です。
財務に接続する前に、まず“サステナ側の翻訳”で設計図を描くのです。
すると財務・経理側も、参加できる会話になります。
ここからが今日の本題です。
財務の話をしなくても、コネクティビティは始められます。
むしろ、ここをやるほど財務側との会話がラクになります。
よくある「現状」はこんな感じではないでしょうか。
- リスクは立派に書いてある
- 施策も書いてある
- KPIも並んでいる
- でも、互いが結びついていない
この状態だと、読む側は「で、結局どれが何に効いているの?」になります。
ここを一本の線にするところからはじめましょう。
たとえば水リスクなら、
財務額をまだ出さなくても、「管理の設計」が見えます。
投資家やステークホルダーが知りたいのは、まずここです。
気候と自然を別物として書くほど、因果が切れます。
水不足は、自然資本の劣化でもあり、気候変動の影響でもあり、地域との関係(S)でもあります。
つまり、「どの箱に入れるか」ではなく「同じテーブルに並べること」が効くのです。
具体的には、既存のTCFDリスク一覧に、列をひとつ足すだけで十分です。
この列があるだけで、社内からも見え方が変わります。
「気候の話だからこっち」「自然の話だからそっち」という押し付け合いが減ることに貢献しそうです。
ただ、①も②も、それだけでは宙に浮きます。
線を引いても、テーブルを並べても、「なぜそこを見たのか」「なぜそこは見なかったのか」——前提が共有されていなければ、社内の別の部署がその設計図を受け取ったとき、同じ地図を見られません。
そこで、3つ目の接続の出番となります。
ここがサステナ担当者さまの強みになりやすい領域であり、コネクティビティの中でも見落とされがちな、しかし最も効く部分です。
コネクティビティは“数字の接続”だけではなく、“前提の接続”でもあります。
この前提が説明できると、①の因果の線も、②のテーマ間マトリクスも、初めて「なぜこの形なのか」が他者に伝わります。
経理・財務が設計図を受け取ったとき、「ここはなぜ対象外なの?」と聞かずに済む。
IR担当が投資家に説明するとき、「選定の根拠は?」に自信を持って答えられる。
逆に、ここが曖昧だと「どこにどれだけ影響するか?」という財務の問いも、「なぜこの開示範囲なのか?」という投資家の問いも、宙に浮きます。
前提の可視化は、新しい分析を追加する作業ではありません。
すでに社内で行われた議論を、「読める形」に整えるだけの作業です。
つまり、サステナ担当者さまのお手元から始められます。
誤解されがちですが、財務への接続は「サステナが財務をやれ」という話ではありません。
むしろ、財務への接続が求められるのは、 会社として同じ現実を見ているかを確認するためです。
サステナ側が設計図を描く。
経理・財務が、その設計図のどこに財務的な論点が刺さるかを一緒に考える。
IRが、投資家への説明線を組み立てる。 事業部が、実装の優先順位を決める。
——こういう分業のほうが、実は“コネクティビティっぽい”のです。
(一人で抱えると、お見合いが起きやすい)
では、この分業を始めるときに何を渡せばいいのでしょうか。
前提としておさえておきたいのは、経理部門もまた、人的資本やSSBJ対応で開示項目が急増する中、余裕があるわけではないということです。
(このあたりの不安感は、日経ビジネス2026年1月15日付「サステナ開示で深まる『開示地獄』 このままでは経理部が持続不可能」などを読むと伝わってきます…)
だからこそ、「数字を出してください」ではなく、相手が応答しやすい形で渡すことで、実務がスムーズにまわる可能性が高まります。
ということで…
サステナ担当者さまから経理・財務に渡していただきたいのは、“数字の質問”ではなく“設計図のドラフト”です。
①で引いた因果の線、③で整理した選定ロジックを1枚にまとめ、 「この因果の線で、財務的な論点が刺さるところはありますか?」 と問いかける。
この形なら、経理側も「ここに引当の論点がある」「ここはCAPEX計画と絡む」など、自分の言葉で応答できます。
最初の一歩は、完璧な設計図ではなく、「一緒に見られるドラフト」を持っていくことです。
最後に、今日の話を実務に落とします。 SSBJ対応の準備として、今年できる「小さな一歩」を3つ。
リスク→施策→KPI→意思決定会議体まで、1ページに線でつなぐ。 線が引けないところが、社内の断絶点です。
新しい資料を作るより、既存の表に列を足すほうが速い。 テーマ間接続が始まります。
深掘り対象を選んだ社内メモを引っ張り出す。 「リスクが高いから」と「成果を示せるから」が混在していないか。 混在しているなら、列を分けるだけで透明性は上がります。
コネクティビティを「財務接続だけ」と思い込むと、 サステナ担当者さまには気が重いことが多いです。
(それこそ、いきなり別職種に転職したような気持ちになるかも…)
でも実際には、サステナ担当者さまが強い領域── 問いの設計、前提の可視化、選定ロジックの透明性、テーマ間の接続── ここを整えることこそが、社内の“お見合い”をほどく鍵です。
財務への接続は、その先で合流すればいい。 合流できるように、まずは設計図を描く。 コネクティビティは、そこから始まるのだと思います。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。