この記事の3つのポイント
本記事は、2026年2月13付ブログ記事『投資家が「健康」を測りに来た──ICFPとSASB改訂が示す、食品開示の地殻変動』の続編です。
未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。
前回は、投資家連合ICFPとSASB改訂を通じて、「健康」が投資判断の入力データへ変わりつつある状況を整理しました。
今回は、その変化をさらに一段押し進めている存在に焦点を当てます。
それが、ATNi(Access to Nutrition initiative)です。
ATNiは、10年以上にわたり世界の大手食品・飲料企業を対象に、栄養・健康パフォーマンスを評価してきた国際NGOです。
これまでは、
- 外部から評価し
- レポートで批判し
- 企業行動を促す
という立ち位置でした。
ですが、2025年、ATNiはISSBのSASB改訂プロセスに正式に意見提出しました。
ここに、質的な転換点があります。
ATNiの意見の核心はシンプルです。
健康戦略を評価しようにも、比較可能なデータが決定的に不足している
彼らが問題視しているのは、次の4点です。
① ガバナンスとロビイング
企業が健康・栄養リスクをどのような体制で管理しているのか。
そして、政策提言やロビイング活動をどう行っているのか。
ICFPの要求と、完全に重なります。
② データの粒度
グローバル平均では意味がない。
国別・地域別に、健康度を示すデータが必要。
——規制の強さが市場ごとに違うことを鑑みれば、当然の要求ではあります。
③ 規制のない市場への適用
先進国では厳しく、新興国では緩い。
このようなダブルスタンダードは、今後批判されやすいポイントになります。
④ 製品イノベーション
健康度を高める技術や処方変更を、単なるR&D紹介ではなく、評価対象に含めるべきだとしています。
ATNiの関与が意味する最大の変化は、ここではないでしょうか↓
これまでのリスク:批判されること
これからのリスク:比較され、順位づけされ、目標管理を問われること
SASB基準が整い、ATNiのような評価がその上に乗ると、企業は「語り方」では逃げられなくなっていきます。
この流れを踏まえ、実務者さまが今から備えておきたい点は、明確です。
① データ設計
NPMを用いた製品分類と、売上比率の算定。
完璧でなくても、設計思想を持つことが重要です。
② マーケティング・ガバナンス
子ども向け広告の定義、審査、例外、是正。
「管理している」と説明できる状態を作っておきます。
③ 法務・損失の棚卸し
表示・マーケ起因の損失を集計できる体制。
数字を出さなくても、出せる構造を示します。
④ 「努力中」の書き方
課題認識 → 暫定措置 → 計画 → 指標。
背伸びしない開示こそが、長期的に信頼を生みます。
健康をめぐる空気は、すでに制度になりつつあります。
政策、投資家、市場、基準、NGO。
そのすべてが、同じ方向を向き始めました。
問われているのは、
「良いことをしているか」ではなく、
「悪い影響を管理できているか」。
そして投資家は、それを比較可能なデータで見ようとしています。
この変化に、どう向き合うか
——それが、これからの食品・飲料企業の説明責任になると考えられます。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:ATNi「ATNi engages in the IFRS/ISSB consultation on amendments to the SASB standards」(2025年11月5日)
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。