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うちは車じゃないから、では済まされない――取適法時代、経産省「自動車会議」が示した全産業への3つのサイン

コンプライアンス

この記事の3つのポイント

  • 取適法は資本金だけでなく従業員数でも射程が決まる。「うちは対象外」と思っていた企業ほど取引の棚卸しが必要に
  • 価格協議はもはや「交渉テクニック」ではない。説明・情報提供・記録を含む「実効性」が問われるガバナンス課題に
  • モノの製造委託だけでなく、ソフトウェア開発や物流委託まで点検対象が広がり、他業界にも“標準動作”が波及か

 

2026年2月5日、経済産業省の製造産業局に新しい会議体が立ち上がりました。

名称は、「自動車サプライチェーン取引適正化会議」。

参加者には自動車メーカー・部品メーカーだけでなく、素形材産業界が入り、オブザーバーとして公正取引委員会と中小企業庁も名を連ねています。

この顔ぶれだけでも、「自動車業界の内部調整」だけで終わる会議ではなさそうだ、と伝わってきます。

 

実際、2026年2月5日に開催された第1回会議の資料を丁寧に追っていくと、ここで起きていることは「自動車の話」というよりも、2026年1月1日に施行された取適法(改正下請法)を、国がどの粒度で運用していくのか、その手触りを示す動きに見えてくるのです。

 

プライム上場企業でサステナビリティやIRを担当されている方にとっては、これは法務部門だけの論点ではありません。
サプライチェーンの適正化は、調達・経理・現場の発注権限、そして「説明できる状態」の設計そのものに直結します。

ここから先、何が「普通」になっていくのか。そのサインが、この会議に詰まっているように思えます。

 

資本金では逃げられない。「従業員数基準」が連れてくる現実

取適法のインパクトの中でも、現場にじわじわ効いてくるのが適用範囲の広がりです。

これまでの下請法では、資本金の区分によって親事業者・下請事業者が線引きされる場面が多く、「資本金を抑えているから、うちは大丈夫」と考えられてきた企業もありました。

 

ところが新法では、資本金だけでなく従業員数による基準が加わりました。

物品の製造委託などで常時使用する従業員数が300人超、役務提供委託などで100人超という線が、企業規模のもう一つの「入口」になります。
つまり、資本金の設計で説明してきた安心感が、そのままでは通用しなくなる可能性がある。ここが第一の転換点です。

 

この変化の怖さは、「製造業だけの話ではない」ところにあります。

IT、物流、サービス——委託構造を持つ企業で、従業員規模が一定以上であれば、いつの間にか当事者になり得ます。
担当者様としては、「うちの取引って、どこまでが法の射程に入るのだろう」と、社内の地図を描き直す必要が出てきます。

 

「検討します」では終われない。価格協議は実効性が問われる

二つ目のサインは、価格協議の扱いです。

会議資料の実態調査(案)では、代金決定に関して「原材料価格、エネルギーコスト、労務費等の価格転嫁」や「一方的な原価低減率の提示」といった論点が、課題例として整理されています。

つまり、制度として「ここを見る」という目線が、すでに共有され始めているのです。

 

これまでも、値上げの相談が来たときに、発注側がすぐに結論を出せない場面は多々ありました。

予算がある、価格体系がある、社内稟議がある——現場のさまざまなご事情は、よく分かります。
ただ、取適法の世界では、協議の申し出に対して、協議に応じないまま放置したり、必要な説明や情報提供を欠いたまま一方的に代金を決めたりすることが、禁止行為として問題になり得ます。

 

ポイントは、「値上げを受け入れなければならない」という単純な話ではないことです。

問われるのは、協議が「形」ではなく「実」になっているか。
説明はできるか。
情報提供はしたか。
プロセスは残っているか。
言い換えれば、価格協議は交渉術ではなく、ガバナンスの設計になってきた、ということです。

 

自動車業界では、近年の勧告件数が増え、業界全体に改善要請が出るところまで来ています。

だからこそ、今ここで「何を見て、どう運用するか」を整理しようとしている。これは、他業界にとっても、近い将来の「当たり前」の予告編であるかのように見えます。

 

「モノ」の話では終わらない。ソフトと物流が射程に入った意味

三つ目は、対象領域の広がりです。

実態調査(案)には、型取引や補給品といった製造業らしい論点と並んで、「SDV(ソフトウェア定義車両)時代におけるソフトウェア対価の算出方法」が挙がっています。

ここに、いまの時代感が濃く出ています。

 

ソフトウェアの対価は、モノのように原価を積み上げて決められるとは限りません。

要件が変わる、
追加開発が出る、
運用が続く。

だからこそ、対価の算出や変更の扱いが曖昧になりやすい。
ここが会議の俎上に載るということは、「製造業の下請構造」だけでなく、ITベンダーや開発会社との取引のあり方も、取適法の文脈で整理されていくことを意味します。

 

さらに、自工会・部工会の側では、運送委託への対応も議題に入っています。

取適法で特定運送委託が適用対象に加わったことを踏まえ、物流との取引も、いよいよ「点検対象」となっていきます。

モノを作る企業にとっても、物流は生命線です。
そして、物流費はコスト転嫁の議論とも直結します。

ソフトと物流が同じ資料の中に並ぶこと自体が、「この制度が見ている世界は、工場の中だけではない」というメッセージに見えるのです。

 

この会議は「取締り強化」そのものではなく、「相場観づくり」に近い

ここで、会議の設置趣旨にある一文が効いてきます。

「直接の取引先の更に先の取引階層まで」を含めて取引適正化を浸透させるには、サプライチェーン全体での取組が必要だ――。
Tier1だけでなくTier2、Tier3、その先へ。国の視線が、取引の深いところまで届こうとしていることが、明確に言語化されています。

また、オブザーバーに公取委と中小企業庁が入っていることも重要です。

ここで共有される論点や見方は、将来の執行や周知の優先順位と無関係ではいられません。

もちろん、いま直ちに全産業を一斉に取り締まる、という話ではないでしょう。
むしろ、先行業界の議論を通じて「何が適正で、何が危ういのか」という相場観を作り、それを他業界に広げていく。私はこの会議を、そういった地ならしとして見るのが実務的だと思います。

 

担当者様として、いま確認しておくと安心なこと

こうした動きのなかで、担当者様がまず気になるのは、「結局うちは何をすればいいのか」だと思います。

結論は、派手な新制度対応を足すことよりも、社内の運用を説明できる形に整えることです。

 

まず、自社が従業員数基準を含めて取適法の射程に入る可能性がないか、調達・業務委託・運送委託といった取引類型ごとに、社内で線を引き直しておく。

次に、価格協議の申し出が来たときに、誰が、どの情報で、どう説明し、どんな記録を残すのか。ここを仕組みにしておく。

最後に、モノだけでなく、IT開発や物流の委託についても、対価の算定や変更の扱いが“曖昧さ任せ”になっていないか、点検しておく。

 

これだけでも、数か月後の安心感が違ってきます。

 

おわりに――「実態調査」は、企業への問いかけとして届く

資料によれば、経産省は2026年3月上旬までを目途に実態調査を行う予定です。

調査項目は、型取引、補給品、代金決定、ソフトウェア対価、運送委託と幅広い。つまり、この会議が示しているのは「ここから先、取引のどこが問われるのか」という設問そのものです。

 

「いやいや、うちは車じゃないから…」と距離を置きたくなる気持ちも、正直よく分かります。

けれど今回の会議は、自動車業界の枠を超えて、取適法時代の“標準動作”がどう形づくられていくのかを映しています。

慌てないために、そして社内外に説明できる材料を少しでも増やすために、いまのうちに自社の取引を一度、点検しておく価値は大きいはずです。

 

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週の初めから少しかたいお話になってしまい、申し訳ありません。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

 

注)本稿は、2026年2月5日開催の「自動車サプライチェーン取引適正化会議」第1回会議の公開資料(資料3、資料5、自工会・部工会活動報告)に基づいて作成しました。

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