ニュース / 勉強用(初学者様向け) / 気候変動 / 脱炭素
この記事の3つのポイント
本記事は、2026年1月27日付ブログ記事『今さら聞けない「マスバランス」の話を背景からわかりやすく説明します——なぜグリーンスチールは「先に」走り出したのか』の続編です。
未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。
グリーンスチールの議論に触れると、必ずと言っていいほど行き着く問いがあります。
マスバランス方式は、実務としてどこまで許容できるのか。
どんな説明をすれば、誤解を生まないのか。
削減されたという「価値」を、帳簿上で特定の製品に割り当てる——この仕組みを、移行期の現実解と捉えるか、それとも実態との距離が大きい仕組みだと見るか。
企業によって、そして実務者によって、判断は分かれます。
結論から申し上げると、
私自身は、この方式は、「出口戦略が明確に示されている場合に限り、移行期のツールとして位置づけ得る」と考えています。
手放しで賛美するわけでも、全面否定するわけでもありません。
理由は比較的シンプルです。
理想論だけで、巨大な設備投資を伴う産業転換が進むなら、すでに世界はもっと軽やかに変わっているはずだからです。
現実には、資金・技術・供給網が同時に立ち上がる「重さ」がある——そのことを少しは理解しているつもりだからです。
私がマスバランス方式を評価するポイントは、第一に、需要と供給の「にわとりが先か、卵が先か」の問題を動かし得る点です。
ゼロエミッション製鉄が完成し、十分な量が供給されるのを待っていては、市場も資金も育ちません。
一方で、移行期の削減努力を価値として流通させる仕組みがあれば、需要側が先に動きやすくなり、供給側も投資判断をしやすくなります。
二つめに評価しているのは、これは単なる延命ではなく、次世代技術へ移行するための「時間を買う」戦略として位置づけられると考えられる点です。
高炉や既存設備の強みを活かしつつ、次の技術へソフトランディングする
そのための緩衝材として、マスバランスを使うという考え方は理解できます。
一方で、実務者として注意すべき兆候も明確にあると考えています。
たとえば、マスバランスを掲げる一方で、物理的な排出削減のロードマップがほとんど語られない場合。
あるいは、「100%グリーン」など、受け手が”物理的に別物”だと誤解しうる表現で過剰に演出してしまう場合。
こうなると、この仕組みは「移行ツール」ではなく、グリーンウォッシングと捉えられるリスクが高まります。
ここで重要なのは、「マスバランスだから悪い」と短絡的に結論づけないことだと考えています。
「マスバランスを使うなら、何をセットで語るべきか」と考えるのが建設的かつ現実的ではないでしょうか。
だからこそ、企業として(あるいは取引先を評価する際に)確認すべきなのは、賛否ではなく以下の点ではないかと、私は考えます。
① いつ、どの範囲で、物理的な設備転換や実排出削減へ移行するのか
② 国際的なルールや基準の変化が起きたときに、説明の一貫性をどう保つのか
①移行計画の明示
いつ、どの範囲で、物理的な設備転換や実排出削減へ移行するのか。マスバランスはあくまで移行期のツールであり、最終的な技術転換へのロードマップが示されているかどうか。
②説明の一貫性
国際的なルールや基準の変化が起きたときに、説明の一貫性をどう保つのか。規制や開示基準が厳格化した場合でも、同じ論理で説明できる設計になっているか。
これらを明確に説明できるかどうか。
そこが、マスバランス方式を説明として受け入れられるかどうかの分かれ目になるのではないでしょうか。
「定義が曖昧だから」「まだ決まっていないから」は、判断を保留するには十分な理由であるようにも思えます。
しかし、「ルールが市場を制する」という過酷な側面も(残念ながら)含まれているサステナビリティの現場においては、「不完全なルールの中でどう前に進むかを考える」ことも重要ではないでしょうか。
経済産業省のグリーン鉄(グリーン鋼材/グリーンスチール)推進とマスバランス方式——一見、拙速に映る部分もあるかもしれませんが、私はこのように見ています。
ーーー
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。