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幻のバター、余りものの力。カルピスに学ぶ「捨てない」サステナビリティ

ニュース / 資源循環

この記事の3つのポイント

  • 「幻のバター」と呼ばれるカルピスバターは、副産物ではなく、生乳を最大限に活かすために設計された価値創造の結果として生まれている
  • 脱脂乳を発酵や栄養素材として活用するカルピスの工程は、バター不足や資源制約という構造的課題への一つのヒントを示している
  • 温暖化で生乳が貴重になる時代において、「増やす」よりも「使い切る」発想が、企業の技術力や商品設計の差となって表れている

「幻のバター」に込められた意味

2026年1月、カルピスから数量限定(500セット)で新作スイーツが発売されました。
「カルピス(株)特撰バター」を贅沢に使用した濃厚デザートです。

 

(ご参考記事)
日経電子版「カルピスから生まれた『特撰バター』のデザート 甘さ控えめ」(2026年1月19日)

 

市場ではなかなか出回らないことから、「幻のバター」と呼ばれてきたカルピスバター。
その言葉の響きに、思わず反応してしまった方も多いのではないでしょうか。

 

ただ、このスイーツを「高級路線の話題作」としてだけ捉えるのは、少しもったいない気がします。
背景には、限られた生乳をどう活かし切るかという、資源活用の発想が見えてくるからです。

 

「取り除かれたもの」が、もうひとつの主役に

カルピスバターは、カルピスをつくる過程で生乳から分離される乳脂肪分(クリーム分)を原料として生まれます。(「カルピスを煮詰めて脂を取り出す」というイメージを持たれることがありますが、実際はそうではありません)

工程としては、生乳をまず「脱脂乳(脂肪分を除いたミルク)」と「クリーム」に分け、脱脂乳はカルピスへ、取り分けたクリームはバターへと向かいます。

つまりカルピスバターは、「カルピスができた後の副産物」というよりも、カルピスが生まれる前段階で分けられたクリームを、きちんとバターとして仕上げたものです。

製品の表示上もバターとして扱われ、乳脂肪分の基準(いわゆる乳等の基準に関わる省令の規格)に沿ったものとして販売されています。

 

また、カルピスバターの特徴としてしばしば語られるのが、すっきりした風味と、白さを感じる外観です。
「なぜ白いのか」については説明がいくつか見られますが、少なくとも言えるのは、そうした特徴がブランドとしての個性になっているという点でしょう。

 

ここには、「主役(カルピス)をつくるために分けたものが、別の主役(バター)になる」という構造があります。

副産物を「おまけ」ではなく、価値の塊として成立させる。
ゼロ・ウェイストの発想を、わかりやすく体現している例にも見えます。

 

「脱脂乳」が、健康長寿を支える?

もう一つ、カルピスの周辺には興味深い資源活用の話があります。
それは、バター製造の過程で生まれる「脱脂乳(スキムミルク)」の活用です。

 

脱脂乳は、加工の仕方次第で、たんぱく質を中心とした栄養素材として価値を持ちます。
近年は「ミルクプロテイン」系の飲料が広がり、筋トレ層だけでなく、フレイル予防など健康課題との接点でも語られる場面が増えてきました。

 

そしてこの話は、日本で「バターが足りない」と言われる背景とも、無関係ではありません。

バターは脂肪分から作られますが、同時に、脂肪分ではない側(無脂乳固形分)が大量に生まれます。

この部分の需給や在庫、加工・保管の制約が強まると、結果として「バターだけ増やす」ことが難しくなる――そうした構造が、行政や業界でも繰り返し説明されてきました。

 

その意味でカルピスは、脱脂乳を「粉末にして在庫として抱える」方向ではなく、発酵という技術で別の価値へ転換してきた存在とも言えます。

副産物の扱い方次第で、全体のバランスが変わる。ここは、資源循環を語るうえで見落としにくいポイントです。

 

温暖化と酪農が直面する現実

2025年の夏は、全国的に高温が注目され、観測地点によっては記録更新も相次ぎました。
酪農の現場では、暑熱が乳牛のコンディションに影響し、乳量や乳成分が落ちやすいことが知られています。

つまり「生乳が貴重になる局面」では、増産だけに頼らない発想が必要になります。

限られた資源を、どう「使い切る設計」に変えられるか。
ここに、企業の技術や商品設計が問われる余地が出てきます。

 

カルピスの製造工程は、この問いへの一つの答えのようにも見えます。

脂肪分はバターへ、脱脂乳は乳酸菌飲料やたんぱく質飲料へ――。

同じ原料の中で役割を分け、複数の価値を成立させることで、資源のロスを抑えていく。そんな思想が読み取れます。

 

「おいしさの裏側」にある構造を見る

バターのひと口、カルピスの一杯。
そこには、同じ原料をどう分け、どう価値へ変えるかという、設計の工夫があります。

 

もちろん、カルピスの工程がそのままバター不足を解決する特効薬になるわけではありません。

ただ、バターの「相棒」である脱脂乳の価値を高めることが、結果として全体のボトルネックを緩めうる――この発想は、資源制約が強まる時代において、とても示唆的です。

 

副産物を「余りもの」として扱うのではなく、最初から価値の連鎖として設計する。

カルピスの100年の知恵は、脱炭素や資源循環が求められる今の企業にも、ヒントを投げかけてくれているように思います。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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