この記事の3つのポイント
本日(1月20日)は「大寒」です。
一年で最も寒さが厳しく、海や湖の恵みが最高潮に達する――はずの時期でもあります。
冬の日本海を象徴する存在だった氷見の寒ブリは、まさにこの大寒の頃に脂を蓄え、「旬」の主役として語られてきました。そして山陰では、宍道湖のシジミが寒い季節に滋養をもたらす食材として親しまれてきました。
しかし今、この二つの「冬の恵み」は、気候変動という共通の外部要因のもとで、異なる段階のリスクに直面しています。
氷見の寒ブリについては、気候変動の影響がすでに表面化している段階に入ったと考えるのが自然でしょう。
(ご参考記事)
日経電子版「寒ブリが記録的な不漁、10年ぶり「旬」宣言できず? 産地の富山・氷見」(2026年1月14日)
日本海北部の水温上昇により、ブリの回遊ルートや南下のタイミングが変わり、「大寒の頃には必ず来る」という前提が揺らいでいます。
結果として、不漁や「旬」を宣言できない年が現実のものとなりました。
重要なのは、これが管理の失敗ではないという点です。
定置網、厳格な基準、地域一体の取り組み――氷見の寒ブリは、自然資本を丁寧に価値化してきた成功モデルでした。
それでも、自然条件そのものが変われば、影響は避けられない。
この現実が、いま突きつけられています。
一方、宍道湖のシジミは、氷見とは異なる段階にあります。
現時点で、漁獲量が激減しているわけではなく、資源管理も機能しています。
ただし、海面上昇にともなう海水の流入増加と塩分濃度の変化により、今後、卵や稚貝の生育に影響が出る可能性があると、科学的に指摘されています。
(ご参考記事)
朝日新聞デジタル「宍道湖のシジミに危機? 気候変動で海面上昇すれば塩分が増加」(2025年5月30日)
宍道湖のシジミは、「まだ起きていないが、起こり得る」段階にあります。
氷見が「すでに起きた変化」に対応しているとすれば、
宍道湖は「変化が起きるかもしれない」前提を今から織り込む局面にあるといえるでしょう。
ここで対照的な存在として挙げたいのが、因島のはっさく大福です。
(ご参考記事)日経電子版より
「広島みやげ『はっさく大福』首位 もみじまんじゅう超え」(2025年2月2日)
「広島駅土産トップ「はっさく大福」 かしはら、因島発で全国めざす」(2026年1月15日)
現在、はっさくの主産地は和歌山であり、因島ではありません。
それでも、はっさく大福は因島・広島の名物として定着しています。
その理由は明快です。
生果の出来に価値を賭けるのではなく、加工・味の設計・物語に価値の重心を移しているからです。
年ごとの収穫量や糖度の違いは、編集によって吸収されます。
自然は重要な素材でありながら、揺らいでもブランドは崩れない。
これは、一次産品を「食として因島化」した好例といえるでしょう。
ただし、ここで立ち止まって考えたいのは、「解は『食』だけなのか?」という点です。
このヒントになりそうなのが、香川県東かがわ市で養殖されているブランドカキ「アドミルク」です。
ここでは、養殖過程で命を落としたカキの殻を使い、一点もののキーホルダーが作られています。
(ご参考記事)
日経電子版「カキ稚貝の殻でキーホルダー 香川・東かがわ、補充後1週間で完売」(2026年1月18日 )
- 廃棄されがちな貝殻
- 不揃いで大量生産が難しい素材
- 食用ではないという制約
これらを、「誰とも被らない一点もの」「物語を宿すもの」として価値に転換しました。
ここで重要なのは、この価値が「食」からは切り離されていることです。
不漁でも成立する。
サイズが揃わなくても成立する。
数量が限られていても、むしろ魅力になる。
アドミルク・キーホルダーは、自然資本を文化資本・関係資本へ転換する取り組みだと言えるでしょう。
ここまでを整理すると、解の方向性は二つあります。
▽はっさく大福型
→ 一次産品を加工し、「食」として価値を編集する
▽アドミルク型
→ 自然の副産物や物語を、「食べない価値」として編集する
前者は理想的で再現性のあるアプローチ、
後者はより即応的で、自然変動にも強い構造です。
氷見の寒ブリや宍道湖のシジミにとって、はっさく大福の道だけが答えではありません。
むしろ、アドミルク型の発想のほうが先に効く局面もあるのではないでしょうか。
大寒は、冬の極点でありながら、次の季節を考えるための節目でもあります。
氷見の寒ブリは、はっさく大福の夢をそのまま見ることはできないかもしれません。
宍道湖のシジミも、これまで通りであり続ける保証はありません。
けれど、自然に賭け切らない価値の置き方を学ぶことはできます。
食として編集する道。
食べずに物語として残す道。
その両方を視野に入れられるかどうかが、気候変動時代の地域ブランドに問われる力なのだと思います。
大寒の静けさの中で、
自社や地域の「前提」が揺らぐ未来を想像してみる――
それもまた、サステナビリティの実践ではないでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。