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なぜ中期経営計画は「走り切れない」のか――目標勾配仮説から考える、目標設計と説明力のヒント

価値創造ストーリー / 統合報告書

この記事の3つのポイント

  • 中期経営計画が途中で形骸化しやすいのは、個人の意志の問題ではなく、目標の設計や距離感に構造的な理由あり
  • 目標勾配仮説は、「なぜ終盤で加速しないのか」を人の行動特性から読み解くためのヒントになる
  • ゴールを走り切るためには、行動につながるマイルストーン設計と、未達成も含めて説明できる目標の語り方が重要

なぜ中計は途中で消えがちなのか

新年が始まり、少し落ち着いたこの時期。
3月期決算の企業では、新年度の方針や次の中期経営計画などがそろそろ話題に上り始めている頃かもしれません。

そこで、少しだけ立ち止まって考えてみたいことがあります。

前の計画で掲げたあの目標は、最後にどのように扱われていたでしょうか。

 

大きな反対があったわけではないけれど、いつの間にか議論に上らなくなった。
明確な総括がないまま、新しい目標に更新された。

そんな経験、心当たりのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 

これは決して、特定の企業や担当者さまの問題ではありません。
むしろ、多くの組織で繰り返し起きている、構造的な現象です。

 

「目標勾配仮説」が教えてくれる、人の自然な行動

心理学には「目標勾配仮説」と呼ばれる考え方があります。

人は、ゴールが近づけば近づくほど、行動のスピードと集中力を高める、というものです。

スタンプカードがあと一つで埋まると、つい立ち寄ってしまう。
マラソンで、ゴールが見えた瞬間に自然と足が前に出る。

どれも、私たちにとってごく自然な感覚です。

 

ですが、そうであるならば、中期経営計画も、終盤に近づくにつれて組織全体がラストスパートに入っていっておかしくはありません。

ところが現実には、多くの企業で「終盤になるほど話題に上らなくなり、熱量が下がっていく」現象が見られます。

 

なぜ、企業の目標には、この「勾配」が生まれにくいのでしょうか。

 

企業目標に「勾配」が生まれにくい理由

一つ目は、目標そのものへの納得感です。

最初から背伸びしすぎた数値目標は、現場にとって「どうせ届かないもの」になりがちです。ゴールが見えない以上、近づいている実感も生まれません。

 

二つ目は、距離感の問題です。

3年、10年という時間軸は、人の本能がゴールとして認識するには、あまりに遠い。途中で自分たちがどこまで来たのかを確認できなければ、勾配は平坦なままです。

 

そして三つ目が、修正や撤退への心理的なハードルです。

環境が変わったにもかかわらず、目標を見直すことが「失敗」と受け止められてしまう。結果として、十分な振り返りや説明が行われないまま、目標がフェードアウトしがちになるのです。

 

ゴールを「走れる距離」に引き寄せるために

では、どうすれば目標に勾配を取り戻せるのでしょうか。
ポイントは、ゴールを変えることではなく、「見え方」と「語り方」を変えることにあります。

 

まず重要なのは、最終的な結果指標だけでなく、その手前にある行動やプロセスを、はっきりと言語化することです。

たとえば排出量削減であれば、何年までに、どの拠点で、どんな意思決定を行うのか。自分たちの行動がゴールにつながっていると実感できて初めて、勾配は立ち上がります。

 

次に、数値そのものだけでなく、「できるようになった状態」を節目として示すことも有効です。

データ基盤が整った、対話できるサプライヤーが増えた。こうした変化は、数字が出る前段階の重要な成果です。投資家にとっても、それは「今はジャンプ前の助走期間である」という合理的な説明になります。

 

そしてもう一つ、意外と見落とされがちなのが、未達成の可能性をあらかじめ織り込んでおくことです。

どの前提が崩れたら見直すのか。その場合、どこを検証するのか。
これを先に語っておくことで、未達成は「失敗」ではなく、「検証結果」として説明できるようになります。

 

結びにかえて

マイルストーンとは、単なる通過点ではありません。
遠すぎて見えないゴールを、今日から走れる距離まで引き寄せるためのレンズです。

投資家が見ているのは、目標の数字そのもの以上に、その裏側にあるロジックの誠実さです。
そして現場が求めているのは、「この道を走り続けていい」と思える、納得感のある設計です。

目標が立ち消えてしまうのは、意志が弱いからではありません。
勾配が、見えなくなっているだけなのかもしれません。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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