この記事の3つのポイント
2026年の年明け、こんなニュースが目に留まりました。
セブン銀行が、ATMに入れる現金の量を今後3年間で3割減らすのだとか。
日銀の利上げにより、現金を調達・保有するコストが目に見えて増えてきたことが背景にあります。
(参考)
「セブン銀行、ATM内現金3000万円を3年で3割減 日銀利上げで調達費増」日経電子版(2026年1月7日)
ATMの台数はむしろ増えているのに、中に入っている現金は減らす。
この動きは、ぱっと見では矛盾しているようにも映りますが、実はとても合理的です。
なぜなら今は、「お金をそのまま置いておくだけでも、コストがかかる時代」に突入しているからです。
この変化は、金融機関に限った話ではありません。
長く続いたゼロ金利という「凪」の時代を抜け、日本企業は今、「資金に明確な値札がつく世界」へと足を踏み入れています。
そしてこの変化は、これからの統合報告書、とりわけCFOメッセージにも確実に影響します。
ここから先、統合報告書の企画・制作が本格化していく中、
「CFOメッセージの書き方は、基本的に昨年踏襲」
が前提とされている場面を、よく見かけます。
もちろん、企業としての姿勢や戦略の方向性が大きく変わっていないのであれば、昨年の内容をベースにすること自体は自然な流れです。
ただ、金利が動いた今、2026年発行の統合報告書においては、CFOメッセージが「(これまでと)同じ言葉でも違って聞こえる」というケースが出るように思います。
以下、「昨年までなら自然だったが、今は投資家が気にする表現(もしくは発言のニュアンス)」の例をいくつかお伝えします。
(1)「当面は大きな影響はないと考えています」
これは、低金利の安定期であれば、慎重で無難なコメントとして好意的に受け取られていたかもしれません。
ですが、今年に関しては
「そもそも、どの変数にどれだけ感応するのか見ていないのでは?」
という印象を与えかねない表現になります。
(2)「負債は依然として安い資金です」
これも注意が必要です。
絶対水準としては正しくても、投資家は資金の時間価値やリスクプレミアムまで織り込んだ議論を期待しています。
そこまで語られないと、「思考の深さ」に不安を覚えるかもしれません。
(3)「成長のためには、多少の効率低下は致し方ない」
問われているのは効率低下そのものではなく、資本コストを上回るリターン(スプレッド)をどう確保するかという説明があるかどうかです。
こうした表現が注目されやすくなった理由は、とてもシンプルです。
資本コストが、「モデル上の数値」ではなく、「実際に財布から出ていくコスト」として強く意識されるようになったからです。
投資家の視点も、「どれだけ成長するか」から、「コストを差し引いたあと、いくら残るのか」という点にシフトしています。
これは、CFOの発言姿勢を責めるものではまったくありません。
これまで暗黙のうちに共有されていた前提が、今や明確な言葉での説明を求められる時代になった、ということなのです。
とはいえ、現場の統合報告書制作担当者さまは、
「そうは言っても、CFOがそこまで踏み込んで話してくれない」
という場面にも直面されているかもしれません。
でも、それは必ずしも「話さない」のではなく、「まだ言語化しきれていない」だけというケースも少なくありません。
ここで重要になるのが、質問の質です。
「影響はありますか?」という曖昧な聞き方ではなく、
「どの前提が変わったときに、最も効いてくると感じますか?」
というように、仮説を含んだ問いかけをすることで、CFOの思考を引き出せることがあります。
「金利ある世界」に入った今、企業経営には厳しさと同時に、戦略の言語化と対話を深めるチャンスが到来しています。
統合報告書の価値は、完成した冊子そのものではなく、その制作過程での対話と再構築にあります。
投資家の視点を持ち込み、経営に「問い」を届ける皆さまは、単なる編集者ではなく、企業価値を前に進める「カタリスト(触媒)」であるとも言えます。
もし、次回統合報告書のCFOの言葉がまだ定まっていないなら、それは、ともに考えられる絶好のタイミングかもしれません。
「この環境下で、私たちはどう勝つのか?」
この問いに、次回の統合報告書でどんな答えを見せられるのか。
そのプロセスは、きっと貴社の2026年を切り拓いていくのではないでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。