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AI経営幹部の登場で、組織はどう変わるのか――サステナビリティとIR視点で考える光と影

DX / ニュース

この記事の3つのポイント

  • AIが経営に入り込む時代、「誰の思考をAI化するか」は組織の多様性とガバナンスの成熟度を映し出す鏡となるかも
  • 現職トップAIは効率を高める一方で、思考の均質化や忖度構造を固定化するリスクも孕む
  • 創業者の哲学を学ばせたAIならば「答え」を与える存在ではなく、迷ったときに立ち返る判断軸=北極星として機能し得る可能性も

AIは、ついに「経営の意思決定」に入り始めた

企業のDXは、業務効率化や自動化のフェーズを越え、いまや「経営の意思決定」そのものに踏み込みつつあります。
最近では、現職トップの思考や発言を学習させた「AI経営幹部」「社長AI」といった取り組みも話題になりました。

社長の分身が24時間、社員の相談に乗り、経営哲学を語る——理念浸透の究極形のようにも見えますし、「合理的で効率的だ」と感じる担当者さまもいらっしゃるでしょう。

一方で、どこか言葉にしづらい違和感を覚えた方も、少なくないのではないでしょうか。

実はこの感覚こそが、これからのサステナブル経営を考える上で、非常に重要なヒントになるのではと私は考えます。

 

「過去の成功体験」を永久保存するというリスク

社長の思考をトレースしたAIは、言い換えれば「過去から現在までの成功法則の集積」です。
しかし、VUCAと呼ばれる不確実な時代において、過去の正解がそのまま未来の正解であり続ける保証はありません。

 

トップの思考をAIとして固定化し、組織全体に行き渡らせることは、一見すると統率力を高めるように見えます。

けれども同時に、「組織が学び、変わっていく余地」を狭めてしまう可能性も孕んでいます。

 

IRの視点で見れば、企業価値の源泉は環境変化への適応力です。

もし意思決定の前提が「トップの過去の思考」に縛られてしまえば、その柔軟性は徐々に失われていくかもしれません。

 

ダイバーシティは、意見の「数」ではなく「揺らぎ」

サステナビリティ経営において、ダイバーシティ&インクルージョンが重視される理由は明確です。

異なる視点が交わることで、リスクの兆しに早く気づき、新しい価値が生まれるからです。

 

では、社員が日常的に相談する相手が、「社長の思考を再現したAI」だったらどうなるでしょうか。

無意識のうちに、社員は「トップが好みそうな答え」を探すようになるかもしれません。

 

これは誰かが悪いわけではなく、構造の問題です。

結果として起きるのは、反対意見の減少と、思考の同質化です。
多様性が「存在」していても、「機能」しなくなる瞬間と言えるでしょう。

 

「誰をAIにするか」が映し出す、組織の本音

ここで、ひとつ立ち止まって考えてみたい問いがあります。

なぜ、AI化されるのは、ほとんどの場合「社長」なのでしょうか。

 

複雑化した現代の経営において、一人の人間がすべての正解を持っているはずはありません。

もしかすると、現場のトップ技術者や、顧客の声を最も深く理解している若手社員も、知の源泉になり得るという可能性もあります。

それでも「社長AI」だけが選ばれる背景には、無意識の序列意識や忖度があるのかもしれません。

 

AIという最新技術を使いながら、実は組織のヒエラルキーをそのまま保存している――そんな矛盾が、ここには透けて見えます。

 

創業者AIという選択肢も

ここまで読むと、「ではAIを経営に使うべきではないのか」と感じられるかもしれません。
そうではありません。
問題はAIそのものではなく、「何を学ばせ、どんな役割を与えるか」です。

そこで浮かび上がるのが、「創業者AI」という発想です。

創業者AIは、答えではなく「軸」を思い出させる

現職トップのAIが「今の正解」を提示する可能性が高そうなのに対し、創業者の哲学を学習したAIは、「会社の原点」を問い直す存在になり得ます。

社員が直面している具体的な悩みに対して、「それは、私たちが何のためにこの会社をつくったのかを踏まえると、どう考えるべきだろうか」と問い返してくれる存在です。

クレドやパーパスが形骸化しがちな中で、哲学を“対話できる存在”として蘇らせる可能性があります。

ガバナンスとしての創業者AIという視点

IRの観点で興味深いのは、創業者AIが「現職経営陣へのチェック機能」になり得る点です。

 

短期的な利益を優先し、創業の精神や社会的責任から逸れそうになったとき、創業者AIが「それは我々の存在意義に照らして正しいのか」と問いを投げかける。

 

これは監視ではなく、健全な揺らぎを組織にもたらす仕組みです。

人が言いにくいことを、AIが代わりに問う。
そんなガバナンスの形も、これからは現実的になっていくのかもしれません。

手法は変えても、志は変えない

事業環境が変われば、手法は変えなければなりません。

過去のやり方をなぞるAIは、組織を硬直させます。

 

一方で、志や志向性を受け継ぐAIは、変化する勇気を与えます。
創業者が今この時代に生きていたら、むしろ「過去の成功体験を捨てよ」と言うかもしれません。

 

その精神を宿したAIであれば、多様性を殺すどころか、現状打破の後押し役になるはずです。

 

AIに学ばせるべきは「答え」ではなく「問い」

私たちが本当に向き合うべき問いは、

 AIを導入するかどうかではなく、AIに何を担わせるか

です。

 

答えを量産するAIではなく、迷ったときに立ち返る「北極星」としてのAI。

 

2026年、

AIを「権威の再生産」に使うのか、
それとも「志の継承」に使うのか。

 

その選択に、企業のサステナビリティの成熟度も現れるのかもしれません。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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