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この記事の3つのポイント
クリスマスイブの夜でも、飲食店が営業していること。
私たちはそれを、つい当たり前の風景として受け止めてしまいがちです。
仕事帰りに立ち寄れること。誰かと外で食事ができる選択肢があること。
その便利さの裏側に、どのような判断や調整があるのかを、日常の中で深く考える機会は、実はそれほど多くありません。
そんな中で今年、丸亀製麺さん(以下、丸亀製麺)が選んだのが、12月24日夜を休業とする判断でした。同社はこの取り組みを「ファミリーナイト」と呼び、従業員が家族と過ごす時間を大切にするための施策として位置づけています。
(参考資料)
「丸亀ファミリーナイト」実施による12月24日(水)15:30以降のディナー営業休業に関するお知らせ
単に店を閉める、という話ではありません。
「従業員の幸福が、結果として顧客の感動につながる」という考え方を、営業判断としてあえて可視化した点に、この取り組みの特徴があるように感じられます。
もっとも、この判断はある程度合理的とも言えます。
12月24日の夜は、(クリスマスイブということもあって)うどんの需要が相対的に落ちやすいと考えられます。その意味では、ここでの休業はコスト削減やオペレーション効率の面でも、一定の合理性を持っていると言って差し支えないでしょう。
つまりこの施策は、従業員配慮と経営判断がうまく重なり合ったケースだとも言えるように思います。
思想と現実を切り分けるのではなく、両立させる。
その姿勢自体が、企業の成熟度を示しているようにも映ります。
12月24日の夜は、お休み。
となると、次に気になってくるのが年末のもう一つの節目です。
12月31日、大晦日の営業はどう考えられているのだろうか、という点が個人的には気になります。
言うまでもなく、大晦日は麺業界にとって一年で最大のかき入れ時ですので。
これに関しては、丸亀製麺は折衷案をとっているようです。
今年、12月31日は15時閉店なのだとか。
これは売上確保と従業員配慮のバランスを取った、非常に現実的な落としどころだと感じます。
もし仮に、31日を終日休業にすれば、短期的な財務指標にはマイナスが出るでしょう。この点を無視して語ることはできませんし、現実的でもありません。
とはいえ、ここでサステナビリティの視点を一段重ねると、この「失われる売上」を、単に「失われるだけのもの」にしないことができるようにも思います。
仮に――あくまで思考実験としてですが――大晦日の完全休業という判断をするのであれば、その判断をどのような価値に変換するか、という設計が重要だと思います。
以下、拙い案ではありますが、
中小企業診断士として昔とった杵柄で(?)、施策を考えてみました。
たとえば、地域との関係を強める機会とするならば、こんな仕掛けはどうでしょう?
12.31 休業します。
理由:年越しはそばだから。
近所の美味しい蕎麦屋さん、こっそり教えます。
代わりに新年は、最高の年明けうどんを
お届けします!
三が日明け、熱々でお待ちしてます!
このコピーのポイントは3つあります。
1.圧倒的な正直さ
「働き方改革のため」といった堅苦しい言葉を一切使わず、日本人の共通認識である「大晦日はそば」という事実に白旗を掲げています。
この「負けるが勝ち」の姿勢は、消費者の「うどんも好きだけど、今日はそばなんだよな…」という罪悪感にも寄り添えるのではないでしょうか。
2.「こっそり教えます」という共犯関係
店頭に近所の個人店の地図を掲示する姿は、SNSで「神対応」として確実に拡散されるでしょうし、紹介された蕎麦屋さんも「丸亀さんがこんなことをしてくれている」と発信するかもしれません。競合を味方に変える最強のPRです。
3.「年明けうどん」への期待値コントロール
31日〜2日を休むことを欠点ではなく、「最高の一杯を提供するための充電期間」と定義し直しています。「31日に食べられなくて残念」という気持ちを、「4日以降に絶対食べに行こう」という期待感へ180度転換させています。
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「今日は蕎麦屋さんの日です」と潔く伝え、近隣の個人経営店を紹介する。
自社の売上を地域に委ねるこの行為は、一見すると損失に見えますが、「全国チェーンが地域の良き隣人である」という強いメッセージになります。
これは、広告ではなかなか得られない社会関係資本の蓄積です。
さらにもう一歩進んで、この取組を「顧客参加型」にするのはどうでしょう?
近所のお蕎麦屋さんのおすすめを、店舗スタッフだけでなく、お店のお客さんからもいただく。「近所でおすすめのお蕎麦やさんを教えてもらう&今回の丸亀製麺の取り組みをどう思ったか」のアンケート、客席に置いたQRコードから回答していただく。
「回答完了画面」は、「良いお年を!1月にまた会いましょう券」というデザインに。
そして、そのアンケートに答えた証の回答完了画面(スクショ)を見せてくれたお客さんには、紅白の「年明けうどん」を感謝価格で提供。
この施策のポイントは、次の2つです。
1.納得感を醸成するボトムアップの対話
企業が一方的に「休みます」と言うのではなく、アンケートを通じて「今回の取り組み(ファミリーナイトや年末年始休業)をどう思いますか?」と問う姿勢は、立派なステークホルダー・エンゲージメントです。
不便だなと思うお客さんがいたとしても、「従業員を大切にする姿勢は応援したい」という声を可視化することで、結果としてブランドへの支持(ロイヤルティ)が強固になります。
2.「スクショで割引」という再訪の強力なインセンティブ
大晦日にお蕎麦を選んだお客様に対し、「年明けは当店へ」という約束をデジタルな証拠(スクショ)で結ぶ。これは非常に優れたO2O(Online to Offline)マーケティングです。
「12月の売上を捨てる」のではなく、「1月の売上に予約(投資)する」という発想に切り替わります。値引きという実利があることで、アンケートの回答率も劇的に上がるでしょう。
お正月休み明け、店内に「私の郷里のお正月」ポスターを作ってはりだすのはどうでしょう?
丸亀製麺のお店では、たくさんの外国人スタッフの方々が働いています。女性も多く活躍しています。そうした方々を単に「女性〇〇比率:●%」「外国人労働者:●%」のような数字で見せるのではなく、文化と背景をもった「人」として紹介する機会をつくるのです。
この施策のポイントは、次の3つです。
1.「制服を着た労働力」から「顔の見える個人」へ
今の日本の飲食業界は多くの外国人スタッフや女性に支えられています。
「私の郷里のお正月」ポスターは、日頃は「うどんを作る・提供する機能」として見られてしまいがちなその方々との間の見えない壁を取り払い、豊かな文化的背景を持つ一人の人間として認識する助けとなります。これは、店舗の空気を劇的に温かくするのではないでしょうか。
2.外国人スタッフの心理的安全性を高める
自分の国の文化を職場が尊重し、お客様に紹介してくれることは、外国人スタッフの方々が「ここに居場所がある」と心理的安全性を感じる強い動機となり、離職率の低下やモチベーション向上に直結します。労働力不足の今、重要な人材戦略です。
3.年末年始の休業に「深み」が出る
もしこのポスターが年末に貼ってあったら、お客さんはこう思うでしょう。
「そうか、このお店が年末年始に休むのは、この多様なスタッフたちが、それぞれの家族や文化的な時間を大切にするためでもあるんだな」と。休業という企業のアクションに、スタッフ一人ひとりの顔が重なり、その決断への共感(エンゲージメント)がさらに深まります。
こうした発想の転換を現実の経営判断につなげるうえで、サステナビリティ担当者さまの役割は決して小さくありません。
サステナビリティは、単なるリスク管理や順守対応にとどまるものではないからです。
財務的には一時停止に見える判断が、どのように人的資本の蓄積やブランドロイヤリティの向上につながるのか。その関係性を言葉にし、物語として整理し、経営陣や投資家に伝えていく——そうした「翻訳」のプロセスこそ、皆さまの専門性が最も発揮される場面ではないでしょうか。
「休むか、休まないか」という二択ではなく、「休むことで、何を創るのか」。
この問いを一段深めるだけで、企業の判断は単なる話題づくりを超え、人的資本経営やステークホルダーとの共創へと姿を変えるように思います。
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このお話が、皆さまの小さなヒントになりましたら幸いです。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。