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法改正は見送りに。それでも、待遇差の透明性が問い直される理由——「同一労働同一賃金」の現在

ニュース / 人材戦略 / 人的資本開示 / 開示基準等

この記事の3つのポイント

  • 同一労働同一賃金の法改正は見送られたものの、「説明のあり方」については企業の自主的対応がより重要になる局面へ
  • 待遇差の問題は制度設計だけでなく、「説明を求めやすい雰囲気」や組織文化と深く関わっており、DE&Iや心理的安全性の視点からも捉える必要あり
  • 退職金や賞与など説明が難しい領域についても、人的資本開示や投資家の関心を見据え、人事部門と連携しながら言葉を整えていくことがサステナ担当者さまの重要な役割に

 

厚生労働省が、正社員と非正規社員の待遇差について「説明の強化」を促す方針を示しました。
いっぽうで、法改正そのものは今回見送られています。

 

(参考記事)
日経電子版「非正規の待遇差、企業に説明徹底促す 同一労働・賃金で法改正見送り」(2025年12月11日)

 

このニュースを見て、
「義務が増えなくて少し安心した」という方もいらっしゃるかもしれません。
実務を担われる担当者さまの率直なお気持ちだと思います。

 

ただ一方で、義務化されなかったからこそ、企業としてどこまで丁寧に向き合うかの判断が難しくなる側面もあります。

強制ではない「望ましい取り組み」のほうが、むしろ企業のスタンスが明確にあらわれること、こうした取り組みには必ず「(業種内での)先進企業」が出てきてベンチマークされることになると予想されるため、いまからお悩みのご担当者さまもいらっしゃるかもしれません。

では、サステナビリティや人的資本のご担当者さまは、今回の動きをどのように受け止めれば良いのでしょうか。この記事では、いま考えておくと後々ラクになる視点を、整理してみたいと思います。

 

説明責任の範囲が少し広がったように見える理由

今回の報告書案では、雇い入れ時に待遇差の説明を求めることが可能である旨を周知する義務が追加されました。さらに、説明の求めがなくても、待遇差をわかりやすくまとめた資料を渡すことが「望ましい」とされています*1

 

義務ではないものの、「望ましい」と位置づけられると、結局どこまで対応すべきか迷ってしまいそうですが…ここで重要なのは、待遇差そのものの有無よりも「なぜその差があるのか」を言葉にできるかどうかだと思います。

制度が整っていても、それが十分に説明されていないと、従業員にとっては不透明に感じられてしまうことがあります。

サステナビリティ担当者さまにできる最初の一歩としては、人事部門と一緒に「今の説明資料で、背景まで伝わっているか」を確認することではないでしょうか。
制度変更の前に、まず「語り方」を整えることで改善できる余地は意外と大きいものです。

 

制度があっても使われないという現実

記事には、以下のような記述があります。

厚労省によると、説明を求めたことが「ある」と答えた人の割合は8.0%で、実際に「説明があった」のは5.4%にとどまる。求めたことがない理由は「説明を求めやすい雰囲気がない」「説明を求めることができると知らなかった」が挙がった。

出典:日経電子版「非正規の待遇差、企業に説明徹底促す 同一労働・賃金で法改正見送り」(2025年12月11日)

これは制度の設計だけでは解決できない、組織文化に関わるテーマです。

制度があっても、それが活用されなければ公平性は実現しません。
DE&Iや心理的安全性といった領域とも深くつながっています。

もちろん、いきなり文化を変えることは簡単ではありません。
ただ、サステナビリティ担当者さまとしてできることはあります。

 

たとえば、
従業員サーベイに「待遇差について説明を求めやすい雰囲気だと感じますか?」といった小さな質問を一つ加えるだけでも、現状の感触をつかむことができるかもしれません。
大きな制度改革をしなくても、まずは「今どこに課題があるのか」を把握するだけで、社内での対話がぐっと進みやすくなるのではないでしょうか。

 

退職金や賞与などの説明が難しい領域にも光があたる

ガイドラインでは、退職金、無事故手当、賞与、福利厚生といった、働く方々にとって大きな意味を持つ項目が新たに明記されました。

これらをどう説明するかは、人事制度の専門性が必要になる難しい領域です。
ただ、投資家の関心が男女間賃金格差の開示から、「雇用形態間の公平性」へ少しずつ移りつつあることを考えると、企業さまとしても向き合う準備をしておきたいところです。

 

ここで負担を感じられる担当者さまも多いと思います。
だからこそ、サステナビリティ部門と人事部門が協力して、社外への説明と社内制度の言葉が矛盾していないか を点検することが今、大切ではないでしょうか。

すぐにすべてを整える必要はありません。
ただ、「どこから説明しづらさが生まれているのか」を把握しておくことで、今後の制度改定や開示議論がスムーズになります。

 

義務化でないからこそ企業の「らしさ」が表れる

法改正が見送られたことで、今回のテーマは「すぐ対応しなければならないもの」ではなくなりました。

ですがこれは、裏を返すと「どこまで丁寧に向き合うか」に関する企業さまそれぞれの姿勢がそのまま見えてしまうことになった、という状況でもあります。

サステナビリティ担当者さまにおかれましては、人事マターに見えるテーマのなかに、組織文化・透明性・対話の質 といった、サステナビリティの本質に関わる問いが潜んでいることを再認識されるきっかけとしていただけましたら幸いです。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:日経電子版「非正規の待遇差、企業に説明徹底促す 同一労働・賃金で法改正見送り」(2025年12月11日)

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