この記事の3つのポイント
本記事は、2025年11月12日付ブログ記事『「働いて、働いて」で働き方を括らない社会へ——労働の「らしさ」を疑う』の続編です。未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。
先日、暗闇キックボクシングの体験に参加しました。
場違いなところに来てしまったかも…とドキドキしながら向かったスタジオ。私の隣には、おだやかで控えめな雰囲気のお母さん風の女性がいらっしゃいました。
「あ、この方が受けているなら、私も大丈夫かも…」などと甘い期待をしていましたが、レッスンが始まると、その方はサンドバッグに驚くほど力強いパンチとキックを繰り出したのです。
その姿には、「女性らしさ」というラベルでは捉えきれない、野性のようなエネルギーを感じました。
同じような「らしさの外側の熱」は、日常の様々な場面でも見られます。
たとえば、モスバーガーはアボカドバーガーを「大口でかぶりつく喜びを求める女性」に向けて訴求しました*1。
幸楽苑の「カルボらーめん」も、控えめなイメージとは裏腹に「食欲を解放したい」という女性の本音を肯定した新商品と言えそうです*2。
こうした事例に共通するのは…
人は、ラベルで語られる「らしさ」よりも、
その外側にある「野性」「欲望」「黒い部分」にこそ熱を宿しているということ。
そしてその熱は、実は組織を動かすエネルギーにもなりうるのです。
ここで私は、Official髭男dismの楽曲『らしさ』の一節——
誇るよ全部 僕が僕であるための要素を
を思い出します。
この「全部」には、自信や強さだけでなく、弱さ、迷い、焦り、負けん気、嫉妬、黒い衝動といった、扱いづらい部分も含まれます。
ですが、企業が人を語るときに出てくる「らしさ」とは、「協調的」「感情コントロールが上手」「明るく前向き」など、属性で整えられた「扱いやすい」らしさが多いのではないでしょうか。
本来、「らしさ」には
矛盾や黒さなども含む「熱」のようなものが含まれるはずですが、
企業が目を向けがちな「らしさ」では、その部分が見落とされやすい。
それが個を活かしきれない組織の構造的な出発点ではないかと感じます。
企業がこのような「熱」を活かしきれない背景には、いくつかの理由が考えられます。
■扱いやすい人を前提にしたマネジメント設計
協調的・安定的な性質が評価されやすく、負けん気や衝動性は扱いづらいものとして敬遠されがちです。
■リスク管理文化による抑制
異議や越境はトラブルの芽と見なされやすく、結果として無難さが選ばれる傾向があります。
■属性ラベルでの効率的な理解
「女性は…」「若手は…」というラベルは便利ですが、多用してしまうとその瞬間、個々の雑味が見えなくなってしまいます。
Official髭男dismの楽曲『らしさ』には、
なんでこんなにも面倒で 不適合な長所を宿してしまったんだろう
誰にも負けたくないんだ そんな熱よどうか 消えてなくなるな
という歌詞も登場します。
企業が(しばしば)扱いづらいと見なしがちな部分こそが、実は本人の推進力であり、組織の武器になる場合もあります。
これからの人的資本経営では、「負けん気」「諦めの悪さ」「こだわり」「衝突を恐れない姿勢」など、一見、(社会や組織に)不適合とも映りそうな、個々人の特徴を活かす視点が重要ではないかと考えます。
属性ベースの「らしさ」に頼れば、人は扱いやすくなりますが、
その瞬間、個々の熱や推進力は見落とされやすくなります。
拳を振るう力も、濃厚な一杯を求める欲も、誰にも負けたくない黒い感情も——
全部ひっくるめたものが、その人の「らしさ」です。
これからの時代は、その「全部」を見抜き、活かすマネジメントが、組織の持続可能性を高めていくのではないでしょうか。
本記事が、みなさまの組織での議論や、人材戦略のヒントになれば幸いです。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:「“かぶりつきたい”女性へ モス新作アボカドバーガーの意外な進化」(日経クロストレンド、2025年12月4日)
*2 出典:幸楽苑 2025年12月5日付プレスリリース
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。