サステナ開示をめぐる動向 / ニュース / 開示基準等
この記事の3つのポイント
EUDRやCBAMといったEUの環境規制は、一度決まれば動かない「岩盤」のようなものとして語られがちです。
けれど実際には、理想を掲げてボールを投げ、反応を見ながら徐々に修正していくという、かなり実験的で交渉的な性格を持っています。
先日報道された「ウナギ規制案の否決」は、その生きたサンプルでした。
ウナギ規制強化案の否決、茂木外相「2国間関係が支持につながった」(日経電子版、2025年11月28日)
茂木外相は会見で、否決の背景に「日本との良好な2国間関係が支持につながった」と述べています。
あわせて、韓国や中国、米国などの主要消費国に加え、新興国を含む多くの国がEU提案に反対したと報じられており、日本の立場に同調する国が少なくなかったことがうかがえます。
つまり科学的な根拠に加えて、外交的な積み上げが最終的に票を動かしたということです。
ここから学べる教訓を、以下の3点にまとめてみました。
EUの議論では、欧州の生態系や商習慣を前提にしたロジックがしばしば登場します。
ウナギの議論でも、EU側は「ヨーロッパウナギの資源状態に深刻な懸念があること」と「外見が似ていて種の識別が難しいこと」を理由に、Anguilla属のウナギを一括して規制対象にすべきだと主張しました。
ここで日本は、ニホンウナギの資源量に関する科学的データを積み重ね、現場の状況を丁寧に説明しました。
採決では賛成35、反対100という結果となり、規制強化案は否決されました。
サステナビリティ担当者さまにとって大切なのは、「EUが言うから正しい」ではなく、自社や地域のデータをまず整える姿勢です。
欧州が重視するのは「エビデンスによる対話」ですから、もし規制がそのままでは地域経済や社会に逆効果をもたらす場合、その根拠を示すことで議論を正しい土俵に戻すことができます。
今回、とりわけ象徴的だったのは、日本の反対意見が「孤立」ではなかった点です。
投票は無記名のため地域別の内訳は公表されていませんが、韓国や中国、米国などの主要消費国に加え、途上国を含む多くの国がEU提案に反対したと報じられています。
外務大臣も会見で、これまでODAや技術協力を通じて築いてきた信頼関係が、各国の支持につながったとの見方を示しており、日本の粘り強い外交が後押ししたかたちと言えるでしょう。
EU規制に対しては、東南アジアや南米、アフリカから「保護貿易主義ではないか」という不満が高まっています。
自社だけで反論するのではなく、サプライチェーン上の新興国サプライヤーや業界団体とともに声を上げることが、実効性のある戦略となります。
内容の正しさ以上に、「多様な利害関係者が同じ懸念を抱いている」という事実は、EU内部での「修正の余地」を広げる可能性につながります。
EU法は、成立した瞬間に全てが固まるわけではありません。
委任法や実施細則の策定、そして見直し条項による調整など、運用段階での揺れ幅は想像以上に大きいものです。
実際、CSDDDは当初想定より大きく適用範囲が縮小され、EUDRもオムニバス法案のなかで事実上の後ろ倒しが検討されています。
つまり、「決まったら終わり」ではなく、「決まってからが交渉の本番」なのです。
サステナビリティ担当者さまとしては、100点対応を義務のように背負い込む必要はありません。
EU側も調整を前提に政策運営をしているため、まずは守るべき核心部分を押さえつつ、実施細則のフェーズで現実的な運用へと寄せていく――そんな柔軟さが、結果的に自社のレジリエンスを高めてくれます。
今回のウナギ規制の否決は、国際ルールメイキングにおいて「沈黙は同意とみなされる」という厳しい現実を改めて示しました。
一方で、声を上げ、データを示し、仲間を増やすことで、流れは大きく変えられるという希望も同時に示しています。
EU規制のドラフトが出た瞬間こそ、担当者の仕事が始まるタイミングです。
順守準備だけでなく、「本当にその規制が妥当なのか?」を検証し、必要ならば政府や業界団体を通じて丁寧に指摘していく。
EUは、合理的な反論と票の積み上げがあれば、前言を修正する柔軟性を持っています。
こうした視点で社内のサステナ戦略を捉え直すと、これまで「コスト」にしか見えなかった業務が、競争優位をつくる前向きな交渉活動へと変わって見えるはずです。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。