前回のブログ記事のなかで、サステナビリティ・トップメッセージを書く際には「グローバルリスク*1」を意識する/参考にすると良いですよ、というお話をしました。
これを読んで
リスクの話は「リスクマネジメント」のページに書くものでしょ?
トップメッセージに書く内容ではないんじゃないの?
と思われた方へ。
あるいは、社内でそのようにおっしゃる方への説明にお困りの方へ。
ご参考になりそうな本をご紹介しておきたいと思います。
今回ご紹介する本は、浜辺 真紀子 著「「株主との対話」ガイドブック―ターゲティングからESG、海外投資家対応まで」です。
実は、以前にもこのブログで、別テーマにてご紹介した本ではあるのです。
が、今回のテーマにはこの本のp34~53が最適と考えましたので、改めておすすめさせてください。
この本の中で、今回のテーマに関連して特にご参考となりそうな箇所をご紹介するにあたり、読みやすいようにQA形式でまとめてみました。
「ESGのES」と「サステナビリティ」は大きく2つの項目、すなわち「サステナビリティ・リスク」と「機会」に分けられるということです。
「機会」とは、企業が環境・社会の「役に立つ」、つまり「ポジティブインパクトを与える可能性」を指しています。
一方、「サステナビリティ・リスク」とは、企業が環境・社会に「迷惑をかける可能性」、つまり「ネガティブインパクトを与える懸念」を指しており、企業はこのリスクに対処し軽減・解消する必要があります。
(出典:「「株主との対話」ガイドブック」 p34)
【補足説明】
サステナビリティ・リスクという言葉の定義が公式に定まっているというわけではありませんが、この説明は、(サステナビリティ分野にまだ詳しくないかたにも)イメージがわきやすい言葉づかいになっていると思います。
「事業等のリスク」では、企業の財務状況に直接影響を及ぼす項目が挙げられており、これは、外部環境が企業に与える影響の大きさに基づき必要性を定める「シングル・マテリアリティ」のロジックに基づいた「リスク」と言えます。
一方、(中略)「サステナビリティ・リスク」は「企業が環境・社会にかけうる迷惑=ネガティブインパクト」となります。これは「外部環境が企業に与えうる影響の大きさ」のみならず「企業が外部環境に与える影響の大きさ」も勘案して重要性を定める「ダブル・マテリアリティ」のロジックに基づいた「リスク」といえます。
(出典:「「株主との対話」ガイドブック」 p34~35)
【補足説明】
「シングル・マテリアリティ」「ダブル・マテリアリティ」の部分がわかりづらければ、これらの用語を無視して読んでいただいても問題なく理解できる文章だと思います。
以上の2点はサステナビリティ分野にまだあまり詳しくない方向けの説明でしたが、次の1点は、サステナビリティ分野の最近の動向にお詳しい、あるいはアンテナの高い方からいただきそうな質問です。
この点に関して、著者は
「サステナビリティ・リスク」重視から「機会(インパクト)」重視にするべきだという意見もあるようですが、それはESG先進企業がすでに「サステナビリティ・リスク」への取組みを実施していることを前提としているのだと考えます。
(出典:「「株主との対話」ガイドブック」 p35)
と一刀両断し、
- 「サステナビリティ・リスク」は将来の企業価値を大きく毀損する懸念があるため、取組みと開示は「規定演技」であり、まず真っ先に着手すべき事項
- 「機会」への取組みと開示は「自由演技」であり、「規定演技」で合格点を取った上で評価されるべき事項
(出典:「「株主との対話」ガイドブック」 p35)
と説いています。
今回のブログでは、説明のわかりやすさを優先して「投資家対応」を前面に出してお話いたしましたが、もちろん、ダブル・マテリアリティの観点を重視するということは、投資家以外のステークホルダーの方々の関心や懸念にも応えることになります。つまり、投資家以外のかたがたを読者としている場合でも、やはり「サステナビリティ・リスク」の観点は重視されるのです。
念のため申し上げますと、私はここで、サステナビリティ・トップメッセージを「リスク」の話で埋め尽くすべきだ、と主張しているわけではありません。また、絶対にリスクの話を書かなければならない、ということでもないと思っております。
今回のブログ冒頭で私は、
サステナビリティ・トップメッセージを書く際には
「グローバルリスク*1」を意識する/参考にすると良い
と書きました。
この背景には、今回ご紹介した書籍(p35)で著者が書いている
「ESG・サステナビリティ」への理解が不足する企業においては「機会」のみに言及し、「サステナビリティ・リスク」への言及がない傾向が見られます。
との認識を私自身も持っていることがございます。
「サステナビリティ・リスクについて、トップメッセージ上で直接言及するかしないかは別問題として、せめて、トップメッセージで「機会のみ」の話をしている(かのように見える)記述をすることで、「ESG・サステナビリティ」への理解が不足している企業(トップ)であるとの誤解を受けることのないように、との観点をもってメッセージを作成いただくと良いのではないでしょうか」
これが本日、私がお伝えしたいことでございました。
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1:世界経済フォーラム(World Economic Forum; WEF)は、毎年1月にスイスのダボスで開催される年次総会(いわゆる「ダボス会議」)に先立ち、世界的なリスクに関するレポート「グローバルリスク報告書」を発行しています。
ここで発生した場合に世界的に影響を与える可能性があるリスクをランキング化しており、2023年版では短期的(今後2年間)には生活費の増大が、長期的(今後10年間)には気候変動が最大の懸念事項となっています(資料)。
下の図の出典は、WORLD ECONOMIC FORUM 2024年1月10日付リリース「グローバルリスク報告書2024年版: 環境の脅威が激化する中、「偽情報」がグローバルリスク2024のトップに」です。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。