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なぜ企業の意思決定にはシニア視点が欠けるのか――年齢ではなく構造が生む、見えない段差

DEI / ニュース / 人材戦略 / 品質・安全

この記事の3つのポイント

  • シニア視点が意思決定から抜け落ちる背景には、個人の年齢ではなく「情報の偏り」「体験の非対称性」といった組織構造がある
  • 困っている人ほど声を上げないという特徴や、“声の大きいユーザー”だけが可視化される仕組みが、企業のUX設計やサービス改善をゆがめてしまう
  • サステナビリティ担当者さまはこうした見えない段差を言語化し、意思決定を補正する重要な役割を果たせる

 

本記事は、2025年11月12日付ブログ記事『【ニュース走り書き】Suicaのペンギン引退、その裏にある経営戦略のお話——JR東はなぜ今「信頼のインフラ」へ踏み出すのか』および、11月26日付「Suica・PASMOのteppayが示すもの——「段差」をなくす力こそ決済戦争の新しい勝ち筋では?」の続編です。
未読の方は、あわせてご覧いただくと、より理解が深まります。

 

はじめに:用語について
本記事では、生活導線の中で負担や不安を感じやすい層を「高齢者」、企業が向き合うべき上の世代全体(50代以降を含む)を「シニア」と表現します。生活者としての行動を示す際は「高齢者」、企業戦略やUX設計の文脈では「シニア」としています。

なぜ、シニア視点が意思決定の場で抜け落ちるのか?

第1回では、teppay は「年齢による段差」をインフラ側から補正しようとする動きでは?とのお話をいたしました。

従来の決済インフラには欠けていたこの視点——企業の内部では、なぜこうした「段差」の見落としが起きるのでしょうか。
素朴な疑問として思うのは、「企業で(新サービス開始のような)意思決定を担う立場の人は、多くの場合それなりに‟上の”年齢であるはずなのに、なぜシニア視点が欠けるのだろう?」ということです。

この問いに向き合って改めて考えると、
問題の根は「実年齢」ではなく、企業の「組織構造」のほうにあることに考えが至りました。

以下、あくまで私個人の仮説ですが…
いくつか考えてみました。

①「生活者としての自分」は判断に持ち込みにくい

企業の中で責任ある役割を担うようになると、どうしても判断の軸は「事業の合理性」へ寄っていきます。

市場や投資対効果、競争環境といったビジネスの論理が前面に出る一方で、日常の中で感じるちょっとした不便や不安は、会議の場に持ち込みづらくなるのです。

たとえ自分自身も(年齢的には)シニアであっても、「生活者としての感覚」を自ら切り離してしまうことがあります。

「自分が読みにくいのは個人的な問題かもしれない」
「多少面倒でも、多くの人は慣れているのでは」

こうした認知のすれ違いは、ごく自然に起きるものです。

②デジタル移行世代のため自分自身は「慣れて」いる

現在、企業の中心世代となっている50〜60代は、Windows95 の普及や社内メールの定着、ガラケーからスマホへの移行、業務システムの刷新など、仕事の中で一連のデジタル移行を経験してきました。

このため、「私は普通に使えている」という感覚が自然に身についており、その感覚のまま「だから多くの人も使えるはず」ととらえてしまいがちな面もあるかもしれません。

ですが、実際に店頭で最も困っているのは、その上の世代——75歳以上の高齢層です。
このような認識のズレが、組織の意思決定にシニア視点が入り込みにくくなる背景のひとつにありそうです。

③責任ある立場の人ほど「段差」の実体験機会が少ない

もう一つの大きな要因は、責任ある役割を担うほど、日常の細かな操作を自分で行わなくてもよい環境に置かれることです。
申請や手続きは事務サポートが補助してくれたり、混雑する店頭に並ぶ機会が減ったり、アプリの設定を周囲に任せられたりすることもあります。

このような環境では、極端に言えば、「不便に遭遇しないまま日々が過ぎていく」状態になりやすく、不便さを身体感覚として捉える機会が自然と減ってしまうのです。
段差を体験しなければ、その存在に気づくことは難しくなります。

 

「困っている人ほど声を上げない」という構造的な盲点

さらに、高齢者は困りごとを抱えていても、「迷惑をかけたくない」「恥ずかしい思いをしたくない」という心理から、声を上げないことが少なくありません。
結果として、その不便は顕在化せず、現場リポートにも会議資料にも載らないままになってしまいます。

こうして、組織の中では「問題が起きていない」かのように見えてしまう。
この構造は、年齢に関係なく、どんな組織でも起こり得る「見えない段差」です。

会議室に届くのは「声が大きいユーザー」の情報だけ

UX 会議やサービス検討の場では、SNS の投稿やアンケート、アプリレビュー、店舗からの報告などの「情報として可視化できる声」が主な材料になります。

しかし、そこに映っているのは多くの場合、「(大きくは)困っていない人」の声です。
困っている人ほど声を上げず、声を上げない人の課題はデータに残らず、結果として会議室に届きません。

こうして、意思決定の焦点は自然と「困っていない層」のUX改善へと偏ってしまう。
これもまたシニア視点が欠落する構造的な理由のひとつです。

 

サステナビリティ担当者さまはその補正役になれる

この構造を補正できるのは、じつはサステナビリティ担当者さまかもしれません。

皆さまは日頃から、マイノリティの声や小さな違和感、言葉にならない「兆し」を丁寧に拾い上げ、経営に届ける仕事をしておられます。

だからこそ組織の中で、
「どこに段差が潜んでいるか」
「誰の声がデータに載っていないか」
といった視点を持ち込み、意思決定の盲点をそっと補正する力をお持ちのはず。

これも、サステナ領域が企業にもたらせる大きな価値のひとつではないでしょうか。

 

シニア視点が欠落するのは、年齢ではなく構造の問題

こうして見てくると、シニア視点が抜け落ちる理由は、決裁者の年齢でも、個々の意識の問題でもなく、むしろ、情報の偏りや体験の非対称性、可視化される声の偏りといった「構造」が生む段差が原因であることがわかってきます。

構造が原因ならば、その段差は仕組みで補正できます。
そして teppay は、社会インフラがその補正を一足先に実装しようとした象徴的な事例だったと言えそうです。

今回の記事が、ご担当者さまが自社のUXや意思決定プロセスを見直す際の小さなヒントになれば幸いです。

 

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今週もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、来週のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子

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