この記事の3つのポイント
外食やテイクアウトの世界ではいまや、「カスタマイズできること=良いこと」という考えが常識のようになっています。
けれど最近、ふと立ち止まりたくなるような光景が増えてきました。
どんなトッピングにするか、甘さはどうするか、氷の量は…と、ひとつの注文に思った以上の“決断”を求められる。そんなとき、「選べることがありがたいはずなのに、なんだか疲れる」と感じた経験はないでしょうか?
今回は、コメダホールディングスさんの新業態「ジェリコ堂」や、サラダ専門店のCRISPとWithGreenの設計を比較しながら、「選ばせる戦略」と「迷わせない設計」がサステナビリティとどう関わるかを考えてみたいと思います。
外食業界では長らく、
「カスタマイズの自由度が高いほど、顧客満足も単価も伸びる」
と言われてきました。
SNS映え、自己表現、ちょっとしたご褒美——
こうしたニーズに、カスタマイズはたしかに相性が良い手段です。
一方で、サステナビリティの観点から見れば、次のような課題も浮かび上がります。
- 予測が難しく、在庫が過剰になる
- オペレーションが複雑化し、人的・時間的負荷が増す
- 材料ロスやフードロスが出やすい
- 顧客にとっても「決めること自体」が負担になることがある
つまりカスタマイズとは、自由を生む一方で、ビジネス・顧客・環境の三方に負荷もかける仕組みでもあるのです。
サラダ専門店の2強である CRISP SALAD WORKS と WithGreen。
この2社の「選ばせ方」のアプローチはまったく異なります。
(ご参考記事)
「サラダは主食」専門店2強が台頭 金融マンもリピーター(日経電子版、2025年3月24日)
■CRISP:自由を楽しむ「冒険型サラダ」
- 30種以上のトッピング、14種のドレッシング
- 数万通りの組み合わせが可能
- アプリ注文比率は47%(=店頭で迷う時間を減らしたいニーズも顕在化)
- 「今日は自分で選びたい」日には好適
■WithGreen:固定メニューで「迷わない安心」
- 基本的にカスタムなし。定番サラダが中心
- 廃棄率1%以下と驚異的な在庫安定性
- 野菜はほぼ国産、アボカドは不使用(調達の持続可能性に配慮)
- 都心ランチタイムではCRISPの既存店売上を逆転しつつある
CRISPが「自由」いう価値をつくってきたとすれば、
WithGreenは「快適さ」という価値を磨き上げたといえるでしょう。
私が注目したいのは、都心のオフィス街でWithGreenが強いという事実。
「昼休みがちょっとしか取れない。でも健康的な食事がしたい」のような状況では、「迷わず指差しで選べること」が大きなアドバンテージなのだと、改めて気づかされます。
都内のサラダ専門店をめぐりながらこんなことを考えていたところ、
コメダホールディングスさんの「ジェリコ堂」が池袋にオープンしたと聞き、早速行ってきました。
私には、ジェリコ堂は「自由と快適の“ちょうど真ん中”」に位置しているように見えました。
- カスタマイズは4ステップだけに絞られている
- 初見でも迷わないビジュアル導線
- 推しカスタム(プリセット)をあえて打ち出す設計
- トッピング数は限定的で、在庫のブレが起きにくい
- 商業施設に適した“「短時間満足」の利用体験を意識
CRISPのように自由すぎず、
WithGreenのように固定しすぎない。
その絶妙なバランスをとる設計は、多様な客層が集まるモール型立地において実用性が高いと感じました。
カスタマイズの「多さ」が問題なのではありません。
問題は、「どう選ばせるか」です。
選ばせ方の設計は、実は以下のようなサステナビリティ課題解決に直結しています。
■廃棄や在庫ブレの抑制
→ プリセット中心にすると予測精度が高まり、材料ロスが大幅に削減
■エネルギー・人員負荷の低減
→ オペレーションがシンプルになり、業務効率と持続可能性を両立
■決断疲れの軽減(=顧客満足)
→ “迷わない”ことが体験価値を高め、回転率やリピート率も向上
→ 選ばせ方は、ある意味「意思決定の省エネ設計」とも言えそう
今回の事例から見えてきた「持続可能なカスタマイズ設計」の最適解は、次のような条件を満たすものではないでしょうか。
- プリセットの完成度が高い(そのままでも満足できる)
- 自由度は2〜3項目に限定する(決断疲れを起こさない)
- デフォルトが環境配慮型(例:植物性ミルク、氷少なめ)
- 利用シーン(平日/休日)に応じて選ばせ方を切り替える
こうした設計なら、
「自由」「快適」「環境配慮」の三立が可能になりそうです。
私たちは「自由に選べることが、顧客の満足を最大化する」と信じてきました。
でも今、その前提が少しずつ変わってきています。
CRISP、WithGreen、ジェリコ堂。
三者の「選ばせ方の違い」は、フードロス・回転率・顧客満足といった経営指標にまで影響を与える現実の戦略になっています。
「過剰に選ばせない」設計が企業価値を静かに押し上げる時代が来ているのかもしれませんね。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。