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なぜ今、カスハラ対策が義務化されるのか ——高齢化と現場負荷が対策を不可避にしたテーマ

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この記事の3つのポイント

  • カスハラ対策が義務化された背景には、SNS時代の可視化や労働力不足など、現場が抱える課題が限界に達していた現実
  • 高齢化や顧客接点の複雑化により、カスハラは個人の問題ではなく構造的な社会現象として理解することが必要に
  • 義務化は負担である一方で、企業が“新しい顧客関係モデル”を設計し直す機会にも

 

2026年10月、すべての企業に対して、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)防止のための措置が義務づけられます。

 

(参考記事)
カスハラ対策、2026年10月に義務化 厚生労働省が方針表明(日経電子版、2025年11月17日)

 

今回の義務化について、私は、日本のサービス提供モデルそのものの限界が、制度を押し動かした結果だと感じています。

本日のブログでは、この2〜3年で何が起きていたのかを簡単に振り返りながら、「なぜ今、カスハラ対策が義務化されるのか」「それは企業にどんな示唆をもたらすのか」をご一緒に考えてみたいと思います。

 

カスハラはなぜ「急に」社会問題となったのか

ここ数年、SNSやニュースでカスハラの報道が急増しました。
背景には、いくつかの要因が重なっています。

 

■SNS時代の可視化
現場での暴言や暴力が、これまで以上に拡散・共有されるようになりました。
「見えなかった被害」がようやく社会の視界に入るようになったとも言えます。

 

■労働組合や自治体による実態の可視化
UAゼンセン*1による大規模調査では、7割近くの従業員がカスハラを経験していると回答*2
労災認定基準の整備も進み、問題の深刻さが制度の文脈でも明らかになってきました。

 

■人手不足とコロナ後の不安定さ
顧客側も、従業員側も、社会全体の余裕が失われる中で、
「ちょっとした不満」が「大きな迷惑行為」へと転化しやすい環境ができていました。

 

こうした状況を「現場の我慢」で支えてきたのが、日本企業の現実だったのではないでしょうか。
そしてついに、それが制度として可視化されるほど深刻化した——この2〜3年は、そういう時期だったように思います。

 

「現場の声」が制度を動かした

厚生労働省は2022年に「カスハラ対策マニュアル」を公表し、2023年にはカスハラによる精神疾患を労災認定の対象に含めました。

その後、東京都をはじめとする自治体が先行して防止条例を制定。社会の後押しを受け、2025年6月に関連法が成立。そして2026年10月1日、全国すべての企業にカスハラ防止措置の義務化が適用される予定です。

制度としては急展開のように見えますが、現場から見れば「ようやく」という感覚の方が近いのかもしれません。

 

制度化のスピードはなぜ速かったのか——パワハラ・セクハラとの比較

カスハラ対策の法制化がどの程度「速かった」のかを調べるため、セクハラ、パワハラの法制化までにかかった時間を調べてみました。

 

- セクハラ:1980年代に社会問題化 → 1990年代に法制化

- パワハラ:2000年代に注目 → 2019年に防止法成立(約20年)

 

一方、カスハラはどうでしょうか。

社会的に認知されたのはごく最近。
にもかかわらず、制度化は異例ともいえる速さで進みました。

 

理由としては、

- SNSによる炎上リスクの増加

- サービス業での深刻な離職加速

- 労働力不足という国家的課題

これらが、「法整備の加速装置」として機能したのではないかと考えられます。

 

高齢化とカスハラの関係——「我慢できない社会」へ

報道等ではあまり明確に言われることはないようですが、高齢化が進む日本社会では、顧客側に次のような変化が生じているようにも感じます。

- 新しいことへの対応が難しくなる

- デジタル化への不安が強まる

- 孤独や不安が他者への攻撃性として現れる

- 昭和的なサービス期待(“お客様第一”の記憶)が残る

 

こうした変化は、カスハラが「一部の困ったお客様」の話ではなく、構造的な社会現象であることを示しています。

にもかかわらず、制度上の責任が企業側に集中することで、「釣り合いの取れていない印象」を持つ方も少なくないかもしれません。

 

増え続ける顧客接点、減り続ける担い手 —— サービス現場の今

現場の負担は、カスハラだけではありません。

たとえば飲食業界を見てみれば、

従来の店内対応に加えて

- Uber Eatsなどのデリバリー
- モバイルオーダー
- アプリによるクーポンや事前決済
- さまざまな決済手段への対応
- 多言語対応
- SNSにさらされる不安を抱きながらの接客

 

このようにさまざまな対応が必要となっています。

顧客接点も、覚えるべきことも、心労も、かつてとは比較にならないほど増えていると言えるでしょう。

 

一方で、

- 人手は減り
- 残業も難しくなり
- 経験者も減少
- 賃金は大きく上がらず
ー クレームは悪質化
- SNSでの拡散リスクは上昇

最近では「管理職は罰ゲーム」と言われることが多いですが、
このままでは「サービス業は罰ゲーム」と言われてしまう日も遠くないのでは…と気になります。

(実際、米国ではスターバックスで、クリスマス商戦期にかけて数多くの店舗がストライキで一時閉店する事態も起きていますので……)

 

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このように見てくると、サービス業の現場が抱える構造的な負荷の深刻さは、もはや見過ごせない段階に来ていることが分かります。
そうした背景を踏まえれば、カスハラ防止措置の義務化は、制度として“当然の流れ”とも言えるのかもしれません。

もちろん、企業にとっては新たな負担が生じるのも事実です。
しかし、視点を変えれば、これは“顧客関係の再設計”に踏み出すチャンスでもあるのではないでしょうか。

 

カスハラ対策が変える顧客関係—企業にとっての機会とは

カスハラ対策の義務化は、企業にとって決して軽い負担ではありません。
それでもこれは、

「新しい顧客関係モデル」を企業自らが設計できる数年

になる可能性もあるのではないでしょうか。

 

カスハラ対策の義務化は、決して企業に負担をかけるだけの制度ではありません。

高齢化、デジタル化、人手不足という三重苦のなかで、従業員を守ることが、サービスの品質と持続可能性を守ることにつながる時代に入っていることを改めて認識し、持続可能なモデルを作っていくきっかけともなり得るものであると私は考えております。

 

制度は後追いでも、
現場は今日もお客様と向き合い続けています。

だからこそ、企業担当者のみなさまがこれから描く「顧客との新しい関係の形」は、きっと企業価値の核になるのだと思います。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 UAゼンセン:繊維や流通、小売りなど多業種の労働組合から構成される、日本最大の産業別労働組合。パート組合員が全体の6割を超える。

*2 出典:連合総研「悪質クレーム撲滅!170万署名で国を動かしたUAゼンセンのカスタマー・ハラスメント対策」(2022年9月26日)

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