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【ニュース走り書き】Suicaのペンギン引退、その裏にある経営戦略のお話——JR東はなぜ今「信頼のインフラ」へ踏み出すのか

DX / ニュース / リスクマネジメント

この記事の3つのポイント

  • JR東日本「Suicaのペンギン刷新」の背景には、データ社会への本格参入という戦略転換が見える
  • かつて炎上した「Suicaデータ提供」から10年、JR東は信頼の再構築と制度整備を重ねてきた
  • 「信頼されるデータ活用」は企業のサステナビリティと社会インフラ戦略を結ぶ新たなテーマに

ニュースの影にあった、もうひとつの動き

「Suicaのペンギンが引退へ」——そんな見出しがここ数日、多くのニュースサイトをにぎわせています。 2001年のサービス開始から20年以上、私たちの生活にすっかり溶け込んでいたあの愛らしいキャラクターの引退はインパクトの大きいニュースですね。

 

(ご参考記事)
「Suicaのペンギン」26年度末に終了 JR東日本、新たなキャラに刷新(日経電子版、2025年11月11日)

 

 

一見、ほほえましい話題に見えますが、このニュース、それだけではないように思います。

謎を解くカギは、時を同じくしてもうひとつ報道された、JR東日本に関するこのニュースです↓↓

(ご参考記事)
Suicaのチャージ上限額30万円に JR東日本、コード決済で26年秋導入(日経電子版、2025年11月11日)

 

「Suicaのペンギン引退」と同じタイミングで発表されたのが、Suicaのコード決済導入とチャージ上限の30万円への引き上げです。 鉄道の改札を超えて、買い物や送金、公共サービスまで——。

このニュースは、Suicaを、移動と購買をつなぐデータ基盤として再設計しようという構想が動き始めていることを示しています。

こうして見ると、ペンギン交代は単なるブランド刷新というよりも、Suicaが「データ社会に本格的に踏み出す」姿勢を象徴しているように感じられます。

 

Suicaは、かつて「データの覇者」を目指していた

いまでは当たり前になった「データの利活用」ですが、JR東日本は2010年代前半、すでにその先駆けのような試みを行っていました。

Suicaの乗車履歴や購買データを匿名化し、協業相手である日立製作所とともに、都市開発や広告などに活かそうとしたのです。しかしこの試みは、2013年、そのデータを提供していたことが報じられ、「個人情報への配慮が不足しているのでは」と強い批判を受けました*1

匿名化の技術も、社会の理解もまだ追いついていなかった時代。
JR東はデータ提供を中止し、以後は慎重な姿勢を保つようになりました。
この出来事は、企業がデータを扱うときに「技術だけではなく信頼の設計が必要」であることを、早い段階で教えてくれたものでもありました。

 

炎上から10年、「信頼」を築く静かな積み重ね

炎上以降のJR東日本は、表立ってデータビジネスを語ることをやめました。
けれども、その裏では少しずつ、信頼を築き直すための準備が進んでいたように見えます。

たとえば、
個人を特定できる情報を除外した統計データの提供*2*3
自治体との地域分析プロジェクト*4
そして利用者が自分のデータ提供を拒否できるオプトアウトの仕組み。

一見、地味な取り組みですが、
これらは「信頼を取り戻すための基礎工事」だったように思います。

 

追い風になった、制度の変化

JR東日本がこうした静かな積み重ねを進める中、社会の側でも大きな変化が起きていました。

2016年には、官民データ活用推進基本法制定*5
そして、2025年6月には政府が「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」を発表され、匿名化やトラスト基盤など、データを安全に流通させるための枠組みづくりが明確に示されました*6*7

この流れは、
企業が「リスクを背負って挑む」時代から、
「ルールに則って社会とともに進める」時代への転換を告げるものです。

JR東日本が今、再びSuicaを軸に動き出したのは、まさにその転換を象徴する動きなのかもしれません。

 

ふたたび走り出す、Suicaの進化

そして2025年、Suicaが大きく動き出します。
コード決済や送金機能が加わり、チャージ上限も30万円に拡大されました。

ビューカードとの連携により、購買や移動だけでなく、金融データまで統合されようとしています。

それは、JR東日本が「鉄道会社」の枠を超え、「データを扱う社会インフラ企業」へと進化する意思表明とも受け取れます。

この意思表明と同じタイミングでペンギンが引退するというのは、偶然ではないのかもしれません。

 

ペンギン交代に込められた、次の時代への合図

20年前、ペンギンは「切符をなくした便利さ」の象徴でした。

次代の新キャラクターは、「信頼を前提としたデータ社会」の象徴になるのかもしれません。

つまり、ペンギン交代は——
「乗り物スイスイ」から「信頼スイスイ(?)」へという決意の表れ。

これはJR東日本が、かつて失った信頼を制度と仕組みの力で取り戻し、新たな形で社会に還元していく、その覚悟を感じさせるニュースでもあるように思いました。

 

データ利活用とサステナビリティに関する連載、始めます

不定期連載にはなりますが、
今回のJR東日本の動きを入り口に、政府の制度整備や企業のデータ活用の実際を、サステナビリティの視点から見ていきたいと思います。

「データをどう活かすか」だけでなく、
「データをどう信頼されながら扱うか」。

DXが進展する中、この問いはサステナビリティ担当者さまにとっても重要なテーマになるものと存じます。

 

次回連載をぜひ、お楽しみに。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:Suica に関するデータの社外への提供についての有識者会議「Suica に関するデータの社外への提供について とりまとめ」(2015 年 10 月)

*2 出典:JR東日本ホームページ「Suicaデータの活用について」(2025年11月12日最終確認)

*3 出典:JR東日本ニュース「Suica データ×公的統計を活用した新たなマーケティングレポ―トの販売を開始します 」(2024年10月1日)

*4 出典:タウンニュース藤沢版「藤沢市 観光客動向 スイカで調査 JR東と連携しデータ分析」(2020年11月6日)

*5 出典:官民データ活用推進基本法(平成二十八年法律第百三号)

*6 出典:「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」(2025年6月13日、デジタル行財政改革会議決定)

*7 出典:デジタル庁「デジタル社会の実現に向けた重点計画」(最終更新日:2025年6月13日)

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