この記事の3つのポイント
2025年10月、日本マクドナルドが紙ストローをやめ、フタに直接飲み口を設ける構造にすることを発表しました。素材を変えるのではなく、「そもそも使わない」という発想になったのですね。
(参考記事)
日経電子版「マクドナルド、紙ストローやめます カップのフタに飲み口」(2025年10月27日)
これは単なる容器の話ではありません。
便利さの中にある前提――「ストローは必要なもの」という常識を問い直す、設計の再定義でもあります。
サステナビリティの世界ではこれを「環境配慮設計(DfE:Design for Environment)*1」と呼びます。
製品やサービスの上流(設計段階)から環境への影響を減らす構造を埋め込むという考え方です。
こうした「設計から変える」潮流は、企業だけの動きではありません。
まさに同日(2025年10月27日)、環境省と経産省の合同ワーキンググループで、環境配慮設計に関する指針や設計認定制度の創設に向けた議論が始まりました*2。
これまでの日本の資源循環政策は「廃棄後(リサイクル段階)」が中心でしたが、今後は「どう作るか」という設計段階に踏み込む制度になっていくということを示すこの動き——これは言わば、「素材を変える」から「構造を変える」への政策転換と見えます。
EUではすでに「Ecodesign for Sustainable Products Regulation(ESPR)」が2024年に発効し、製品の修理のしやすさ、再生材の使いやすさ、リサイクル容易性を法で求める段階に入っています。
日本の制度はまだ「認定型」という誘導ステージですが、方向性は明らかに同じと考えられます。
意外に思えるかもしれませんが、マクドナルドが紙ストローをやめるまでにはかなりの時間がかかりました。スターバックスと比較すれば相当遅いとも思えるほど導入に時間を要した(開発に3年以上をかけた)のは、単に判断が遅れたからではないように思います。
マクドナルドのようなドライブスルーやテイクアウト利用が多い業態では、「片手で安全に飲めるか」「こぼれにくいか」といった顧客体験の品質が事業の根幹に関わるでしょう。ストローを使わない構造を全国2,900店舗で統一的に導入するには、製造・物流・リサイクルを含む実証と検証の積み重ねが欠かせなかったのではないでしょうか。
こうした「設計の熟成」に時間をかけるアプローチは、理念と現実を両立する「現実的で」「定着する」サステナビリティを模索する取り組みです。それは、義務や規制への対応で一斉に変えるのではなく、現場で検証を重ねながら最適解を見つけていくという、日本企業が得意とする改良型の進化でもあるように思われます。
今、国が検討している「設計認定制度」も、まさにそのような進化のプロセスを支援する枠組みなのかもしれません。
EUのように法で設計要件を定めるのではなく、優れた設計を認定・見える化して社会に広げていく。法的拘束ではなく、実証の積み重ねによる信頼が価値になる――その意味で、日本の制度設計は現場の歩みに寄り添った形を取ろうとしているように見えます。
サステナビリティの本質は、「正しいことをする」よりも「正しく設計する」ことにあります。
マクドナルドのカップのフタは、政策の動きを先取りするように、設計から社会を変えるというサステナデザインの進化形を私たちに見せてくれました。
理念ではなく、設計と実証の積み重ねが生む持続可能性。
その小さな一歩は、これからの企業の大きな競争力になるのではないでしょうか。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 参考資料:一般財団法人 家電製品協会「環境配慮設計(DfE)の取組について」(平成29年12月4日)
*2 経済産業省 第2回 産業構造審議会 イノベーション・環境分科会 資源循環経済小委員会 設計認定基準ワーキンググループ/第1回 中央環境審議会循環型社会部会 静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会 環境配慮設計推進ワーキンググループ 合同会議 資料3「資源有効利用・脱炭素化促進設計指針案(骨子)」より
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。