前回のブログでは、サステナビリティレポート(やサイト)でのトップメッセージは理念と使命の話が多くなりがち…というお話をしました。
誤解のないよう、念のため申し上げますと、経営トップが理念や使命の話をすること自体は、まったく悪いことではありません。
ただ、トップメッセージが理念と使命の話に「終始して」しまった場合には、
という点には注意が必要と考えます。
今回のブログでは、この点についてご説明したいと思います。
東京証券取引所の「英文開示に関する海外投資家アンケート調査結果」(2023年8月)では、⽇本の上場企業のIR活動に関する意⾒として、次のような指摘がなされています。
サステナビリティについてだが、IRチームは、ビジネスのファンダメンタルズに関わる重要なESGの課題に関する知識をブラッシュアップする必要がある。これらのトピックに関する投資家からの問い合わせへの回答をサステナビリティチームに委ねることはできない。(⽇本拠点・運用会社・投資担当)
(英文開示が不⼗分なことによる投資活動への影響として)会社のリスクと機会のプロファイル、特にESGの側⾯を適切に評価することができない。(欧州⼤陸拠点・運用会社・調査担当)
サステナビリティ/ESGが、「ファンダメンタルズ」や「リスク」という言葉と結びつけて語られていることにご注目ください。
これは、投資家のESG投資手法の中で最も多く使われているのが、「ESGインテグレーション(ESG要因を投資の分析や決定に組み込む手法)*1」であることに関係があります。
ESGインテグレーションにおいて、投資家はサステナビリティ情報からリスクと機会の両方を読み取って考慮することにはなりますが、グローバルリスクが「世界の適応能力の限界まで来てしまっている*2」という現現在の状況下では、どうしても“リスク”の部分に比重をかけて企業を見ることになります*3。
(ご参考)
ESGインテグレーションとは、伝統的な投資判断指標である財務情報に、企業収益成長の持続可能性に影響を及ぼすと考えられるESG(E:環境、S:社会、G:ガバナンス)要因を併せて考慮する投資戦略です。
ESG評価が高い企業ほど、将来の事業リスクの低下などを通じて資本コストが下がる、即ち理論的なバリュエーションが上昇する傾向が観察されています。
ここまでお読みいただいた方はきっとお気づきになったと思いますが、
冒頭で申し上げた、”サステナビリティのトップメッセージが理念と使命の話に「終始して」しまった場合に書かれない可能性が高い内容”とは
リスクを意識した記述
です。
理念や使命の話はその性質上、ポジティブな内容となりやすいですので、ネガティブともとらえられかねない「リスク」の話と一緒に語られにくいようです。
前々回のブログで、私が例に挙げた某社様のサステナビリティ・トップメッセージもその例外ではなく、
伝えたいメッセージは何かがわからず、
熱意も臨場感も伝わってこない
と私が申しあげてしまったのも、このあたりに要因がございます。。。
とはいえ、
あのメッセージの印象を大きく変えることは可能と私は考えております。
その際、「グローバルリスク」を意識することは、印象を変える際の「鍵」のひとつになります。
このシリーズの次回では、この点についてもう少し掘り下げていきたいと思います。
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お読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:QUICK 2024年01月30日 リサーチレポート「ESG投資実態調査2023② 手法別首位「ESGインテグレーション」」
*2 出典:WORLD ECONOMIC FORUM 2024年1月10日付リリース「グローバルリスク報告書2024年版: 環境の脅威が激化する中、「偽情報」がグローバルリスク2024のトップに」
*3 ご参考までに、上述の*1資料より。
「ESGインテグレーション」で組み込んでいるESG要因の首位は、企業自らが排出する直接排出(スコープ1)、自社の電気使用などに伴う間接排出(スコープ2)、事業活動に関連する他社の排出(スコープ3)といった「GHG排出量の内訳と総量」(65%)、2位は「取締役会のジェンダーの多様性」(55%)、3位は「生物多様性と生態系の保全活動」(45%)だった。
上記のほか、ESGインテグレーションに関する基本的な理解には、ピクテ・ジャパンホームページの「ESG投資編(10)ESG投資の事例①〜ESGインテグレーション〜」もわかりやすくて良いと存じます。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。