この記事の3つのポイント
2025年10月8日から5日間、東京ミッドタウン日比谷に「角ハイボール」の期間限定バーが登場しました。
その名も、「はじめてなのに、常連さん。Bar kiiro」。
このバーでは、来店客が「いつもので」と一言オーダーするだけで、事前アンケートの回答に合わせてバーテンダーがぴったりの一杯を提供してくれたとのこと。さらに、自分の名前が書かれたキープボトルまで用意されており、「初めてなのに常連気分」を味わえる、というユニークな企画でした。
思わずクスッと笑ってしまう演出に心がほどけたのと同時に――ふと、思いました。
サステナビリティの世界って、実は「常連だけのバー」みたいなところがあるのでは?
そう感じる理由を、少しだけご紹介させてください。
1.言葉がわからない
「TCFD」「ISSB」「SBTN」「GHGプロトコル」――
アルファベット略語が当たり前のように飛び交い、「それはScope3ですね」なんて言葉が当然のように使われる。初めて耳にした方には、まるで知らない言語のように映るかもしれません。
2.前提知識が膨大すぎる
「どこから手をつければいいのかわからない」
「国際動向をキャッチアップしないと会話に入れない」
そんな不安を感じたことはありませんか?
業界動向や政策の流れは、まるで「裏メニュー」のように常連同士だけで共有されがち。学び続ける姿勢が必要なのは確かですが、どこから手を付ければいいのか——つまり「最初の一杯」がとても遠くに感じてしまうことも。
3.会話が「昨日の続き」で進む
すでに共通認識のある人たちの間では、話がどんどん進んでいきます。
まるで議事録を読まずに途中参加する会議のような感覚で、「聞きたいけど、いまさら質問できない……」という空気に飲み込まれそうになることも。
こうした「常連文化」が企業内で強くなると、こんな状態が生まれかねません。
いわば、「サステナ推進」はされているのに、「サステナ共創」は置き去りになるような状態。
そのような閉じた世界にこもってしまっては、サステナビリティは組織に根づきません。
だからこそ、「一見さん歓迎」のしかけが必要です。
これは、バーでも、サステナビリティでも、きっと同じ。
■略語を使わない「メニュー表」を用意する
たとえば、「Scope3排出量(企業のバリューチェーン全体で出るCO₂のこと)」のように、略語には丁寧な説明を添えてみる。これだけでも、「聞いてもいいんだ」と思える空気が生まれます。
■「やさしい解説係」を置く
サステナビリティについて、何かあったらあの人に聞こう!と思えるような社内の「バーテンダー」的存在を置いてみるのはどうでしょう。形式張った教育ではなく、ちょっとした相談を受け止める存在が、組織の土壌を柔らかくします。
■共感から始まる「乾杯トーク」
「人的資本って言われても、人を数字で語るのか?!って感じますよね」
「DXはわかるけど、GXって何??って思っちゃいますよね」
そんな共感から入る言葉が、対話の扉を開いてくれます。
ああ、なんだ、自分だけが持っている違和感じゃないんだ——と思ってもらえれば、仲間に加わるハードルはぐっと低くなるのではないでしょうか。
「サステナビリティって難しそうだよね」——その言葉の背景には、「誰に聞けばいいかわからない」「場に入れない」という不安があるのかもしれません。
でも本当は、内容そのものが難しいのではなく、入り口がわかりづらいだけなのではないでしょうか。
「ここにいてもいいんだ」
そう感じられる空間をつくること。
その小さな積み重ねが、推進力の底上げにつながるのではと感じています。
「いつもの」と言える場所があるのは、
だれかが「最初の一杯」を差し出してくれた証です。
サステナビリティの会話にも、
そんな一杯を差し出してくれる人がいたら、
もっと、新しい人を迎えることができるのかもしれません。
私たちも、カウンターの向こうで、
つねに「ようこそ」を言える存在でありたいと思っています。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。