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この記事の3つのポイント
昨日、日経電子版のニュースを見ていてちょっと驚きました。
J1広島スタジアム、「街中」移転でCO2減った 観客の車移動が大幅減(2025年10月8日)
サッカークラブの本拠地が街中に移転すると、観客が移動時に排出する二酸化炭素(CO2)が減る――。J1広島を対象にしたこんな論文を、東京大学の井上拓央特任助教らがまとめた。スタジアムの移転がCO2排出量の削減につながることを定量的に示したのは世界で初めてという。
スタジアムの場所を変えただけで環境貢献?──正直、にわかには信じがたい話ですが…
実はこれ、「観客の車移動が減ったことで、移動由来のCO₂排出が下がった」という話。
Scope 3(その他の間接的排出)のうち、観客の移動という“測りやすい一部”の変化だけを切り取ったにすぎません。
建設や運営、渋滞や電力消費といった他の要素を含めれば本当に排出全体が減ったかどうかはわからない…ということは、サステナビリティ担当者さまはすでにお気づきでいらっしゃると思います。
この話、
ニュースの内容自体というよりも、
こうした話題が注目されるということ自体に意味があると思っています。
企業も自治体も、2030年に向けて厳しい削減目標を背負い、
「どこで少しでも数字を減らせるか」を探す日々。
だから、“測りやすい部分”に焦点が当たりやすいのです。
そうなってしまう気持ちは、私たちもよくわかります。
ですが…
それが行き過ぎると、目的と手段がすり替わってしまう。
Scope 3の一部を減らしたように見えても、
サプライチェーン全体ではむしろ増えているかもしれないという視点は、
やはり持っておきたいです。
スタジアムを都市中心部に移す。
本社やオフィスを集約する。
確かに、こうした「集約」によって、個々の移動距離は短縮されます。
しかしその裏で、渋滞や電力ピークの集中、地価の高騰、地域の空洞化など、
別の形で環境・社会的負荷が増える可能性もあります。
たとえば、物流の拠点を統合して輸送距離を短くした結果、
中継拠点が増えてしまい、逆にScope 3全体が増加する――
そんな事例も実際に存在します。
だからこそ、最近ではサステナビリティの実務でも、
「どこを減らしたか」だけでなく、「どこまでを見ているのか」「まだ見えていない部分はどこか」を
きちんと説明しようとする企業が、投資家から信頼を得つつあるように感じます。
Scope 3は、自社の外側にある排出。
だからこそ、線引きをどう設計し、何を「見える化」しているかの透明性が、
これからの開示の前提として重視されていくでしょう。
スタジアムの話は、私たち自身への問いかけでもあります。
「見えるCO₂」だけを追いかけて、本質を見失っていないか。
そうならないためには、数字の大小よりも、
排出の構造そのものをどう見直しているのか、どう設計し直そうとしているのかを伝えることが、
企業の取り組みをより深く理解してもらう一歩になるのではないでしょうか。
Scope 3を「線引きと設計」の観点から考えること。
それこそが、いま問われはじめている「開示の成熟度」なのかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。