この記事の3つのポイント
2025年の夏、日本各地でエアコン室外機の故障が相次いだ──そんなニュースを目にされた方も多いのではないでしょうか*1。
猛暑のなかでフル稼働を強いられてきた冷房機器。
その裏側には、ふだんはあまり注目されない「冷媒」という存在があります。
私たちは日々、快適な冷房や、キンと冷えたビールを当たり前のように享受しています。
その“冷たさ”をつくっているのが冷媒であり、その中には、少しの漏えいでも温暖化への影響が大きいものもあります。
こうした中、CO₂やアンモニアのように、温室効果が小さい「自然冷媒」も広がっており、冷たさと環境の両立が目指されています。
冷媒の歴史を少しだけ振り返ってみましょう。
1928年にフロン(CFC)が開発され、1974年にはオゾン層を破壊する仕組みが発見されました。
その後、1987年のモントリオール議定書を皮切りに、世界中で冷媒への規制が本格化していきました。
こうした規制の甲斐あってか、最近の国連報告では、南極のオゾンホールは2066年ごろまでに消失する見通しだとされています。
(参考記事)
日経電子版「南極のオゾンホール、2066年ごろまでに消失へ 国連報告」(2023年1月16日)
一方で現在、日本の温室効果ガス排出量に占める代替フロン(HFC)は3.5%(2023年度、約3,700万トンCO₂換算)です(出典:環境省)。HFC排出の内訳は引き続き、空調・冷凍冷蔵など冷媒用途が大宗を占めています。
そのため今では、「フロン → 代替フロン → 自然冷媒(CO₂・アンモニア・HFOなど)」という流れが、政府や企業のあいだでも当たり前になってきました。
日本では2030年にHFC排出量を55%削減、2050年には排出ゼロを目指す方針が打ち出されています。
こうした流れを受けて、家庭用冷蔵庫や自販機などでは、すでに自然冷媒が標準になりつつあります。
業務用の冷凍冷蔵庫やショーケースでも、CO₂などを使った省エネ型の自然冷媒機器の導入が進んでおり、環境省の補助制度なども後押ししています。
さらに、こうした動きが可視化されたのは、大阪・関西万博でした。
冷房には水を冷媒とする吸収式冷凍機(いわゆるナチュラルチラー)が6台も導入され、コンビニではグリーン冷媒を使った冷蔵ケースも活躍しています。
これまで裏方だった冷媒が、いまや「ショーケースの中の主役」になりつつあるのかもしれませんね。
そして、冷媒転換の波は、いよいよ飲食店の現場にもやってきています。
アサヒビールとホシザキが共同開発した新型のビールサーバーは、冷媒に自然冷媒であるCO₂を使用。
その温室効果係数(GWP)は、従来のHFCの約1/1,500以下なのだそうです。
(参考記事)
日経電子版「ホシザキ、ビールサーバー2割省電力 アサヒと共同開発」(2025年9月30日)
一見すると小さな変化に見えますが、Scopeで整理するとその影響はあなどれません。
Scope1:サーバーからの冷媒漏えい
Scope2:機器の運転による電力消費
Scope3:飲食店や家庭での使用、廃棄時の冷媒放出
こうした複合的な排出源に対して、自然冷媒化はシンプルで確実な一手になり得る——サプライチェーン全体を見渡してみても、小型機器の工夫が意外と大きな成果を生むことってありますよね。
冷媒の話はどうしても専門的すぎるように聞こえてしまいがちですが、少し視点を変えると、身近で戦略的なテーマにもなります。
大規模な設備だけでなく、店舗の冷蔵庫やサーバーといった“小さな設備”の見直しが、Scope1〜3全体に波及するインパクトをもつ。
そして何より、南極のオゾンホールが回復しつつあるという事実は、冷媒政策が「効く」ことを私たちに教えてくれています。
次の脱炭素のヒントは、意外とこうした裏方のなかにあるのかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 報道の例:テレ朝NEWS「猛暑でエアコン室外機の故障急増 熱波でダメージ 「43℃を超えると危険」どう対策?」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。