サステナビリティのトップメッセージは、なぜか「つまらない」ものになりがちである――このような仮説を立て、「どこが課題なのか」「なぜそうなってしまうのか」「では、どうすれば良いのか」を考えていくシリーズの2回目です。
今回は、前回のブログで(誠に恐縮ながら)例にあげさせていただいた、味の素グループさんの「サステナビリティレポート 2023」p.2に掲載されている「CEOメッセージ」について考察していきたいと思います。
味の素グループさんは、業績もサステナビリティの取り組みも、ESG評価も優れておられます。にもかかわらず、今回のCEOメッセージが“よくある”内容と感じられるものになってしまったのか、その大きな理由のひとつは、理念や使命等*1との話が大半を占めていたから、という理由があると私は考えています*2。
味の素グループさんに限らず、サステナビリティレポートのトップメッセージに「理念」や「使命」の話を書いている(場合によっては、その話が大半を占めている)企業さまはとても多いのです。
では、なぜそうなってしまうのでしょうか?
改めて、その理由を考えてみました。
この理由は、多そうな気がします。
なぜなら、企業さまのサステナビリティ・トップメッセージを読むと、
創業以来、当社にとっては、事業そのものがサステナビリティの実践である/あった
→ サステナビリティは当社にとって特別なことではない
→ 当社では、サステナビリティは経営に(当然のこととして)組み込まれている
→ 社員一人ひとりの中にサステナビリティの意識が根付いている
のように書いてあることがとても多いですので。。
サステナビリティレポートは、特に昨今では、非常に広く多岐にわたるテーマ・内容について書く必要があります。
通常、レポートの冒頭に置かれるトップメッセージを、それらすべての内容への「導入」ととらえるならば、その内容は、全体の”根幹”にあたるものを載せたいと考えるから。
(逆に言えば、あまりに”細かい話”をトップにはさせられないと思うから、という理由もあるのかもしれませんが…)
サステナビリティレポートでは、経営計画や業績や投資の話をしてはいけない、と(無意識にかもしれませんが)考えていらっしゃるかたは、まだまだ多いように思います。
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もしかすると、他にもまだまだ理由があるのかもしれませんが、こんな感じではないでしょうか。
(そうじゃないよ、こうだよ!と思われた方、ぜひメッセージをくださいませ。お待ちしております)
ここまでお読みになって、「いずれも、至極もっともじゃないか。なぜ、理念と使命の話じゃいけないんだ?」と思われたかたもいらっしゃると存じますが…
ここまで書いてしまった責任として、私はここから、「理念と使命の話が多いことの問題点」を挙げていきたいと思います。
まずは、「サステナビリティは自社の事業そのもの」という説明の仕方に欠けている視点について考えてみました。
当たり前のことではありますが、社内で開示媒体を作っていると、しばしば忘れがちになる視点です。
読者が皆、自社の事業や歴史についてよく知っているわけではない。
したがって、自社が「創業以来」社会に価値をもたらしてきたこと、サステナビリティがその歴史の中に息づいてきたことなどを“説得力を持って”説明するならば、背景説明は不可欠でしょう。
自社の事業が何なのか、
創業からの(価値創造の)歴史はどのようなものなのか、
そういったことを、
冊子上に設けてリンクする形でも、
ウェブ上にそうしたページを設けてリンクする形でも良いと思います。
そういった説明をするか、あるいは、
(高等技術ではありますが)「この会社はどんな歴史を持っているのだろう?」と知的好奇心を刺激するような書き方をするのも良いと存じます。
(事例1)
私どもの考えるサステナビリティ経営
パナソニックグループの使命は、創業者 松下幸之助が生涯追い求めた「物心一如の繁栄」、すなわち、「物と心が共に豊かな理想の社会」の実現です。1932年、松下幸之助は25年を1節とし、それを10節、250年かけて「理想の社会」の実現を目指すと宣言しました。以来当社は、この使命を果たすために、物をお届けすることで人々の幸せや豊かさを追求し、それぞれの時代の社会課題解決に取り組んでまいりました。
しかしながら、現在の社会は創業者が目指した「理想の社会」からはほど遠い状況だと認識しなければなりません。(後略)
出典:パナソニック ホールディングス株式会社「サステナビリティの考え方」
歴史の長い企業さまであり、かつ、創業家出身ではないトップがメッセージを発信される場合、理念や使命「そのもの」を語るよりも、経営者ご自身がどのようにその理念を受け止め、受け継ぎ、現在の経営にどう活かしているのか、それにより将来にわたって社会にどのような価値をもたらすと考えているのかを語るほうが説得力が出る場合は多々あります。
(事例2)
ソニーグループさんでは「創業者理念とサステナビリティの考え方」というページをサステナビリティ直下に設け、サステナビリティレポートではそのなかの「サステナビリティの考え方」を引用して、トップメッセージは別な内容を記載しています。
(事例3)
経営者ご自身がどのように理念を受け止め、受け継ぎ、現在の経営にどう活かしているのかを語るトップメッセージとしては、伊藤忠商事さんのサステナビリティページ内にある「会長CEOメッセージ」などが良い事例ではないでしょうか。
ということは、サステナビリティ担当者さまはきっと、誰よりもよくご存じでいらっしゃることと思います(まさに日々、この点でさまざまな苦労をされていらっしゃるのではないでしょうか…)。
こうした認識を読者側が持っている場合、
トップメッセージで
創業以来、当社にとっては、事業そのものがサステナビリティの実践である/あった
→ サステナビリティは当社にとって特別なことではない
→ 当社では、サステナビリティは経営に(当然のこととして)組み込まれている
→ 社員一人ひとりの中にサステナビリティの意識が根付いている
のように語られた場合、残念ながらトップの認識が不足しておられる(あるいは、真にサステナビリティ経営が推進されていない)という印象を与えてしまう可能性があるかもしれません。
自社の事業が「社会価値を生み出すもの」であることと、サステナビリティと経営が”一体化”されているかは別物。組織作りや意識改革、浸透は非常に難しいという認識をまず示し、それをトップが先頭にたって推進していると説明することは、今こそ重要です。
この点でお手本になる事例は、今年(2024年)6月28日に発表された、アサヒグループホールディングスさんのサステナビリティレポートに掲載されていたCEOメッセージ(p3~)ではないかと私は考えております。
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以上、長々と失礼いたしました。
来週も引き続き、サステナビリティ・トップメッセージが陥りがちな”ワナ”について考えるとともに、どうすれば「響く」メッセージをつくることができるのか、ご一緒に考えていきたいと思います。
今回もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1:今回の味の素グループ様の場合、「志(パーパス)」「Our Philosophy(経営理念)」「のコーポレートスローガン」でした。
*2:味の素グループ様の場合、この年は、志(パーパス)とOur Philosophy(経営理念)の「進化」について説明しなければならないタイミングであったという事情は理解しておりますが、同社様に限らず、サステナビリティトップメッセージで「理念」と「使命」の話がなされることは多いため、敢えて指摘させていただいております。
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。