この記事の3つのポイント
近年、シャインマスカットの“値崩れ”が話題になっています。甘くて人気の品種も、急速に栽培が広がる中で品質にバラつきが出はじめ、結果として「高級フルーツ」というブランドイメージが揺らいでいる――そんな現象が起きています。
一方で、いちごの「とちおとめ」はどうでしょうか。1996年に栃木県が開発・品種登録したこのいちごは、今もなお全国の売場で「甘くて安定感のある定番品」として高い信頼を得ています。
なぜ、全国で栽培されているにもかかわらず、「とちおとめ」はブランドを保てているのか?
それは、品種の力だけでなく、“産地全体でブランドを守るための設計”があったからです。
栃木県では、出荷規格が明文化され、粒の大きさ・色・糖酸バランス・パック詰めに至るまで統一基準が設けられています。
さらに、県内の「いちご研究所」では、病害対策や栽培指導が徹底され、選果や出荷も一貫した基準で運用されています。
このように、苗の供給から栽培・選果・流通に至るまで、“クローズドループ型の運用”が設計されていたことが、「とちおとめ」の品質を全国で再現可能にし、消費者の信頼を積み上げてきた背景にあります。
現在、栃木県では次世代品種「とちあいか」への置き換えが進行中で、2024年産では県内の作付面積で「とちおとめ」を上回ったと報じられています。
「とちあいか」は、甘さの明確さ、収量の安定性、日持ちや輸送耐性の高さなど、市場ニーズに合わせて設計された、次世代仕様のいちごです。
栃木県はこの切り替えを通じて、「とちおとめ」で築いたおいしさと信頼というブランドの核を守りながら、より多くの人に、より安定的に届けられる体制へと進化させようとしています。
これは単なる品種の入れ替えではなく、ブランドの価値を損なわず、スケールを持続的に拡張していくための設計刷新だと言えそうです。
こうした「品質と信頼を守るための仕組み」は、全国展開するフランチャイズビジネスにも重なります。
たとえば——
こうしたバランスの取り方に優れているのが、トリドールホールディングスさん(丸亀製麺等を展開)や、コメダホールディングスさん(コメダ珈琲店等を展開)ではないでしょうか。
たとえばコメダさんでは、地域ごとのキャンペーンや販促活動に裁量が与えられており、店舗ごとの「顔」が自然に生まれています。
それでも、「くつろぎの空間」というブランド体験の核はぶれません。
一方、トリドールさんでは、現場スタッフのやりがいや誇りを重視する「心的資本経営」が実践されています。現場の判断を信じ、マニュアルではなく意志で動くことを支える仕組みを作ろうとするメッセージかと思います。
こうした企業に共通しているのは、働く人の自律性や創意を大切にしながらも、ブランドの体験価値をきちんと守る「運用の設計力」があることです。
つまり、「ブランドを守る」とは、現場をしばることではなく、意味ある選択肢の中で自由に動ける構造をつくることなのではないでしょうか。
貴社のブランドやサービスは、全国でどう展開され、どう守られているでしょうか。
ブランドを守ることは、現場を縛ることではありません。
働く人の誇りや判断を活かしながら、変わらない本質を支える「設計」と「運用」が必要なのだと、改めて考えさせられます。
いちご王国・栃木の「とちおとめ」や「とちあいか」が示すブランド設計、そしてトリドールさんやコメダさんが実践する心的資本経営や高裁量のフランチャイズ戦略――そこには、「人の力を信じて守るブランド」という、サステナブルなあり方が垣間見えるのではないでしょうか。
---
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、来週のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。