この記事の3つのポイント
2025年夏、YouTubeでひとつのホラーゲームがちょっとした話題を呼びました。タイトルは「しずかなおそうじ」。花王さん(以下、花王)が制作・配信している、清掃用品を題材にしたオリジナルゲームです。
ぱっと見では企業と無関係に見えるホラーゲームですが、じつは「実況プレイ」を通じて若年層に自然と拡散される仕組みが巧みに組み込まれていました。
これは単なる広報施策ではなく、人的資本経営の観点からも注目すべき、採用・認知の新しいアプローチと言えるかも!と思いましたので、本日のブログではこのお話をさせてください。
当ブログの読者さまにとっては、「ゲーム実況」はまだ馴染みの薄いジャンルかもしれません。
ですが、Z世代やα世代といった若年層にとっては、テレビやSNSと並ぶか、それ以上に生活に根付いたエンタメ文化です。
YouTubeでは、ゲーム実況が音楽やバラエティに並ぶ再生数を誇り、実況者がゲームをプレイしながら語る姿は、視聴者に“自分もその場にいるような体験”を提供します。コメント欄のやりとりやリアクションの盛り上がりも含め、いまや実況は「参加型メディア」としてすっかり定着しています。
さらに、バーチャルキャラクターが実況するVTuber文化も急速に広がっています。なかでも「にじさんじ」や「ホロライブ」といった人気グループは、数百万人規模の登録者をもち、東京ドーム公演を成功させるほどの影響力を持ちます。若年層にとって、これらの存在はテレビタレントやアーティストと同等、あるいはそれ以上の親しみを持つ存在です。
企業様にとっては、「どこで・どうやって若年層と接点を持つか(=タッチポイントの設計)」を再定義することが、今後の広報・採用戦略の要となるのかもしれません。
花王はこの実況文化に寄り添い、あえて「実況映え」するホラーゲームを制作しました。驚きの演出やツッコミどころのある展開が盛り込まれており、実況者にとっては取り上げやすく、視聴者にとっては楽しみやすい構成になっています。
その結果、企業が広告費をかけて発信するのではなく、実況者が自主的にプレイし、拡散してくれる構図が成立。数万〜数十万人規模の若者に、企業名や商品イメージが自然と届きました。押しつけがましさがなく、むしろ「この会社は自分たちの文化を理解している」という親近感につながっているようです。
採用広報という観点から見ると、これは「候補者体験の入口」を設計した取り組みと捉えることもできます。文化に寄り添う企業は、若年層にとって“自分に合う職場かもしれない”と感じてもらいやすくなるのです。
ゲームを通じた若年層との接点づくりという意味では、重電大手である明電舎さん(以下、明電舎)の事例も参考になります。
参考記事:
重電大手が本気のゲーム開発 明電舎「下水王国」、若者の認知改善託す(日経電子版、2025年9月22日)
明電舎が開発したのは、下水処理をテーマにしたシミュレーションゲーム「下水王国」。小中学生が遊びながら、インフラの役割や技術を学べる内容です。
「下水処理なんて地味で分かりにくい」と思われがちなテーマを、楽しみながら理解できる体験へと変換することで、社会インフラ産業への理解や関心を高める狙いがあります。
このケースは、事業の社会的意義を学びの場として再構成することで、将来の採用母集団を育てていく新しい形を示しているように思えます。
花王と明電舎の事例から見えてくるのは、「ゲーム体験」が人的資本経営における多様な接点を生み出す可能性です。
たとえば、花王のようにゲーム実況文化に寄り添うことで、企業は若者の生活の中にごく自然なかたちで入り込むことができます。一方で、明電舎のように“地味”と思われがちなテーマを遊びを通じてポジティブに学ばせることで、業界全体の認知改善にもつながるでしょう。
また、ゲームを通じて得られる行動データの活用も見逃せないポイントです。
人的資本経営において、採用広報・エンゲージメント・スキル習得といった取り組みの成果をどう可視化するかは、いま多くの企業が直面している課題です。ゲームを活用したこうしたアプローチは、その課題に対する新たな選択肢を提示しているのかもしれません。
ゲームは単なる娯楽ではなく、「候補者体験をデザインする」手段として進化を遂げつつあります。実況で盛り上がる花王のホラーゲーム、教育的なアプローチをとる明電舎の下水ゲーム。
どちらの事例も、採用広報や人的資本経営の未来像を考えるうえで、大きなヒントを与えてくれます。
「勝手に拡散される仕組み」や「楽しく学ぶ体験」を、どうやって自社に取り入れていくか。そんな視点が、今後の人的資本戦略には求められているのかもしれません。
本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。