この記事の3つのポイント
世界最大のビールの祭り「オクトーバーフェスト」が、ドイツのミュンヘンで始まったとのニュースがありました。
日本で、ミュンヘンを手本にしたオクトーバーフェストといえば、横浜赤レンガ倉庫で開かれる「横浜オクトーバーフェスト」。今年は「全店舗でノンアルコールドリンクを提供する」とのトピックが話題を呼びました。
飲めない人や飲まない人も気兼ねなく参加できるようにする工夫は、いまやイベント運営に欠かせない視点となりつつあります。
この動きは日本だけの特殊事例ではありません。実は本場ドイツでも、ノンアル市場が急拡大しています。ドイツ国内のノンアルコールビール生産量は20年で倍増し、2024年には約7億リットルに到達。市場全体の約9%を占め、人気ランキングでもピルスナー、ヘレスに次ぐ第3位に浮上しています*1。
背景には、健康志向やスポーツ後のリカバリー飲料としての需要、そして最新の醸造技術による味わいの改善があります。
ドイツでは800以上のノンアルブランドが存在するとのこと*2。
飲まないという選択肢が、もはや「特殊」ではない時代が到来しているようです。
横浜オクトーバーフェスト2025が示したのは、「誰もが楽しめる場づくり」。
企業の動きにも、この姿勢は反映されています。
サントリーは「ザ・ベゼルズ」で、ビールのような飲みごたえを0.00%で実現し、アルコール文化を尊重しながら選択肢を広げています*3。
アサヒビールは夜専用の強炭酸水を発売し、お酒を飲まない層にも“場を共有するための特別感”を届けようとしています*4。
キリンビールも、‟キリンビール史上最もビールに近い味のノンアルコール「キリン本格醸造ノンアルコール ラガーゼロ」”を今月末に発売するのだとか*5。
ノンアルは単なる代替品ではなく、企業側にとっては新たな成長分野。そして、消費者側にとっては「誰もが一緒に楽しむためのツール」として位置づけられはじめているのですね。
ここで視点を人的資本経営に移してみましょう。
技術や企業文化の継承、従業員エンゲージメントの強化には、会議や研修のようなフォーマルな場だけでは十分に機能しきれません。雑談や飲み会といったインフォーマルな交流は、世代を超えて知識や価値観を伝える重要な役割を担ってきました。
一方で、近年の調査では「職場の飲み会に行きたくない」と回答する人が7割を超え、その理由は「気を遣う」「仕事とプライベートを分けたい」といった心理的・時間的な負担感が中心でした*6。しかし、「コミュニケーションの場になるから参加したい」という声も根強く残っており*7、飲み会そのものの価値が失われたわけではないようです。
問題は「飲み会」という形式自体ではなく、そのあり方や選択肢の狭さにあるのかもしれません。
ハイブリッド勤務が進む中でも、出社の価値を見直す動きは広がっています。
株式会社イトーキの調査によれば、「完全オフィス勤務が理想」と考える人は48%にのぼり、対面での接点への需要はむしろ高まっています*8。
リモートワークが浸透した一方で、偶発的な会話や世代を超えた接点が減少し、技術や文化の伝承に空白が生じやすい――こうした状況を背景に、インフォーマルな場の再設計が改めて問われているのです。
その鍵のひとつとなるのは、ノンアルを含めた多様な選択肢ではないでしょうか。
ノンアル文化の広がりは、「禁酒」ではなく「選択肢の拡張」として捉えるほうが適切と言えそうです。
飲める人も飲めない人も気軽に参加できる場があることで、世代や立場を超えた交流が生まれやすくなります。こうした場の中でこそ、ふとした雑談やちょっとした教え合いが起こりやすく、結果として技術や企業文化の自然な継承につながることがあります。
たとえば、こうしたノンアル文化の広がりは次のような点で、人的資本経営を支える可能性があります。
技術・文化の継承:世代間交流のきっかけをつくる
エンゲージメントの強化:参加へのハードルを下げ、帰属意識を高める
多様性・包摂性の確保:飲めない人も安心して参加できる環境づくり
サントリー、アサヒ、キリンといった大手各社の取り組みは、このようなインクルーシブな場づくりを後押しするものとして、人的資本経営の観点からも注目に値するでしょう。
ノンアルの広がりは、健康経営の文脈を超えて、人的資本の活用や育成という企業の本質的な課題に貢献しうる動きです。
「飲み会はもう古い」と片づけるのではなく、「どう再設計すれば、次世代に通じる場になるのか」。
その問いに向き合うとき、ノンアル文化の普及は、私たちに静かなヒントを与えてくれるかもしれません。
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本日もお読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
*1 出典:JETROビジネス短信「ノンアルコールビール生産量が20年で倍増」
*2 出典:ドイツビール醸造者連盟(Deutscher Brauer-Bund e.V.)のプレスリリース「Alkoholfreie Biere weiter auf Wachstumskurs」の下記表現より
「In Deutschland, das weltweit führend ist beim Brauen alkoholfreier Biere, gibt es mittlerweile mehr als 800 verschiedene alkoholfreie Marken.」
(日本語訳:ドイツは世界で最もノンアルコールビール醸造が進んでおり、現在では800以上の異なるノンアルブランドが存在する)
*3 出典は下記2点。
・日経電子版「サントリー、ノンアルビール「ベゼルズ」発売へ 15年ぶり新ブランド」(2025年9月18日)
・サントリーニュースリリース「ノンアルコールビールテイスト飲料「ザ・ベゼルズ」新発売― 総合酒類メーカーの技術と知見で実現したビールで感じられるような飲みごたえ ―」(2025年8月28日)
*4 出典:読売新聞オンライン「アサヒビールが「夜専用炭酸水」発売、大人向け味わいの強炭酸…酒飲まない層の需要掘り起こしへ」(2025年9月17日)
*5 出典:キリンホールディングスニュースリリース「キリンビール初※1の脱アルコール製法でつくった本格醸造ノンアルコール「キリン本格醸造ノンアルコール ラガーゼロ」発売」(2025年9月19日)
*6 出典:日本の人事部「あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える」(ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員 廣瀬 涼氏、2024年11月20日)
*7 出典:オフィスノミカタ「『仕事関係の飲み会に関する調査』20代の約7割が仕事関係の飲み会で「飲酒不要」」(2023年12月26日)
*8 出典:株式会社イトーキ 中央研究所 「オフィスワーカーの意識調査 ― 2025年「オフィス構築に向けて」」
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。