いきなり失礼なタイトルで申し訳ありません。
ですがこのテーマ、実はサステナビリティ担当者さまもひそかにお悩みなのではと最近気づきましたので、勇気をもって書いてみたいと思います。
「サステナビリティのトップメッセージはなぜ『つまらない』のか」――このテーマは、実例をもとに考えていかなければ伝わりませんので…
例にあげるのは誠に失礼なのですが、味の素グループさんの「サステナビリティレポート 2023」p.2に掲載されている「CEOメッセージ」を事例として使わせていただきたいと思います。
味の素グループさんを選んだ理由は、
「本日=7月25日は“うま味調味料の日”だから」
ただ、これだけです。
(他意はございませんし、申し添えておくならば、私は味の素さんのファンです…!!)
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このあと、今回を含め3~4回のブログ記事に分けて、よくあるサステナビリティ系トップメッセージを例に「どこが課題なのか」「なぜこうなってしまうのか」「では、どうすれば良いのか」をご一緒に考えていきたいと思います。
※
なお、下記で引用の枠外に書いてある文章は、味の素グループについて予備知識がない読者が読んだときに感じるかもしれないこと(心の声)を代弁したものです。失礼な物言いに見えるところがあるかもしれませんが、なにとぞ広い心でご容赦いただけますと幸いです…)。
前置きはここまでにしまして。
それでは早速、第1文から読み始めてみましょう。
■第1文・第2文
私たち味の素グループは、アミノ酸の研究を起点として、アミノサイエンス® ※を軸に成長してきました。1908年に「日本人の栄養状態を改善したい」と願っていた池田菊苗博士が発見した「うま味」を、1909年に創業者・鈴木三郎助が「味の素®」として製品化したことからその歴史が始まりました。
第1文には「起点として」とあり、第2文には「その歴史が始まりました」とありますね。
両方とも主語は「味の素」なのだから、この企業のスタートは「アミノ酸の研究」と「味の素の製品化」の2つがあるということでしょうか…?(ちょっと頭が混乱しました)
■第3文
この創業時の「おいしく食べて健康づくり」という志は、100年以上経過した現在も、社会課題を解決しながら社会価値と経済価値の共創を目指す取り組みであるASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)として受け継がれています。
「この創業時の『おいしく食べて健康づくり』という志は」と当然のように書かれていますが、第2文にあったのは「日本人の栄養状態を改善したい」でしたよね?
「社会価値と経済価値の共創」とありますが、「経済価値」の話はどこかにあったでしょうか…?(もしかして1文目の「成長してきました」だけ?)
「ASV」というからにはCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)を意識しているのでしょうが…このあと、説明がなされるのでしょうか?
■第4文
昨今の、変化が非常に激しく予測が難しい事業環境下においては、私たちが拠り所とする志(パーパス)がますます重要になっています。このたび、味の素グループの「志」を、従来の「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題を解決」のその先を見つめ、「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へと進化させました。
ASVについて説明はされず、いきなり「志」の話にシフトしましたね。
ところで…あれ?味の素の「志」って「おいしく食べて健康づくり」じゃなかったでしたっけ?(第3文にはそう書いてあったはず)
ですが、ここには「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題を解決」が「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」になった、とあります。うーん、混乱します…
■第5文・第6文
この志には、経営層の思いだけでなく、当社グループの従業員から自発的に生まれた思いや、サステナビリティ諮問会議等をはじめとするマルチステークホルダーの皆様の期待に応えていくという決意が込められています。志の進化に伴い、私たちの経営理念である“Our Philosophy”についても進化をさせました。
第4文の最後の部分でも気になったのですが、「進化」ってどういうことでしょう…?
「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題を解決」と
「アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献する」、
そもそも、どう異なるのか、何が”進化”なのかがわからなければ、後者が「マルチステークホルダーの期待に応え」るものだと言われてもよくわかりません…
すみません、
正直に告白しますと、
私はここまで読んだ段階で「続きはもう読まなくていいや…」と思ってしまいました。
なぜ私がここで離脱したか。
それは、
味の素さんを知らない人からすれば:
始めて読んだ人にはわからない用語や
定義があいまいな上位概念の話が続き、
数値などの裏付けもないため、
何を伝えたいのかがわからない
と感じたこと、
そして
味の素さんについて多少なりとも勉強した私自身としても:
統合報告書のCEOメッセージのうち
「サステナビリティに関係ありそう」な部分
を拾って短い文字数でまとめただけでは?
伝えたいメッセージは何かがわからず、
熱意も臨場感も伝わってこない
と感じたためです。
……失礼なことを書いてしまい、誠に申し訳ありません……
ですが、さまざまな企業さまのサステナビリティのトップメッセージを拝読する中で、これと同じような感想を抱くことは、実はとても多いのです。
次回のブログでは、なぜサステナビリティのトップメッセージがこんなふうになってしまいがちなのか、その要因を探っていきたいと思います。
お読みいただき、ありがとうございました。
それではまた、次回のブログで。
執筆担当:川上 佳子
代表取締役 福島 隆史
公認会計士。2008年、SusTBを設立。企業の自主的かつ健全な情報開示をサポート。
川上 佳子
中小企業診断士。銀行、シンクタンク勤務を経て2002年より上場企業の情報開示を支援。