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フライパンの「例外」はいつまで続くか――PFAS規制と企業戦略、ISSB/SSBJ開示との接続を考える①

サステナ開示をめぐる動向 / リスクマネジメント / 勉強用(初学者様向け) / 品質・安全 / 開示基準等

この記事の3つのポイント

  • フランスではPFAS規制法案から調理器具が除外され、フライパンは「例外」となった
  • 欧州ではPFASの一括規制とともに、代替困難な用途に対する「猶予」や「不可欠性」の線引きが焦点に
  • 企業には「例外」に依存するのではなく、代替技術・新市場の創出を機会として開示・戦略に取り込むことが求められている

キッチンから始まる「例外」の物語

この週末、私は手持ちのフライパンをひとつ捨てました。
テフロン加工された表面が剥がれてきたためです。

きっと多くの方が経験されている、何気ない日常の一コマですが…
私は欧州のPFAS規制のことを考えずにはいられませんでした。
(職業病かもしれませんが…)

PFASとは何か

私たちが日常的に使っている「テフロン加工のフライパン」――この焦げつきにくい便利な表面加工に使われているのが、PFAS(有機フッ素化合物)の一種であるフッ素樹脂(PTFE)です。

PFASとは、per- and polyfluoroalkyl substances の略で、数千種類の有機フッ素化合物の総称です。

PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)もその代表的な一つであり、ノンスティック加工だけでなく、防汚・撥水・耐熱性といった特性を活かして幅広い用途に使われています。こうしたPFASは自然環境中で分解されにくく、水や土壌に長く残留しやすいことから「永遠の化学物質」とも呼ばれ、各地で規制の対象となっています。

(注)PFASの定義は機関により幅がありますが、OECD等の定義ではPTFEなどのフッ素ポリマーもPFASに含まれます。

フランスで起きた「フライパンは例外」

2024年、フランス議会はPFASを含む製品の販売・製造・輸入を原則禁止する法案を審議しましたが、最終的に調理器具は規制対象から除外されました。

背景には、Tefal(ティファール)を擁するSEBグループをはじめとした業界団体のロビー活動や、「国内雇用を守る」「ポリマー型PFASは比較的安全」といった主張が支持されたことがあると報じられています。

 

このような「例外」をどう捉え、企業戦略やサステナビリティ開示にどうつなげるか――この連載では、そこを考えてみたいと思います。

 

「例外」とされたのはフライパンだけではない

フライパンのケースに限らず、欧州のPFAS規制では、さまざまな産業で「例外かどうか」が重要な論点となっています。

 

代表例:不可欠用途とされた産業

- 半導体製造の添加剤やエッチングガス
- 自動車・航空機の冷媒やシール材
- 医療用カテーテルや人工血管

これらの用途は代替が困難とされ、「不可欠用途(essential use)」として長期の猶予や条件付き使用が提案されてきました。

実際、半導体分野では13.5年の猶予期間が設けられた事例もあります*1

 

一方で、「便利ではあるが不可欠とはいえない」用途――たとえば調理器具や包装材などでは、規制が段階的に拡大しています。

EUの新包装規則(PPWR)では、食品包装中のPFASが2026年からしきい値を伴って制限/実質的に禁止へ向かう方向性が明確になりました*2

ここには、家庭用品・食品に近い領域ほど、“例外”は狭まりやすいという現実が見えます。

それでも「例外」に頼ってよいのか

たとえ現時点で「例外」や「猶予」が与えられていたとしても、その地位が永続的に保証されているわけではありません。

以下のようなリスクが現実に存在します。

 

■政治判断や世論の変化によって、例外措置が後から撤回される可能性がある

実際、フライパンなどの日用品に対しては「まず身近なものからPFASを排除すべき」という市民の声が強まりつつあります。

 

■技術進展により、当初は「不可欠」と見なされた領域でも代替可能と判断され、対象へ組み込まれる可能性がある

 

■例外であっても訴訟リスクは残る

イタリア・ヴェネト州ではPFAS汚染を巡り、日本企業を含む複数社に賠償責任が問われた例が報じられています*3

 

つまり、例外は企業にとって「逃げ道」ではなく、むしろ「いつ失われるか分からない前提条件」と考えたほうがよさそうなのです。

 

日本企業にとっての示唆

食品・飲料メーカー、包装資材、化学素材、テキスタイルなど――PFAS使用が可能性としてある産業にとって、この問題は決して他人事ではありません。

リスク管理とモニタリング

- 自社製品・部材・原材料にPFASが含まれているかの化学物質棚卸し

- サプライチェーン上流の使用実態調査と代替素材の検討

- 欧州REACHやストックホルム条約など、法規制の定点観測体制の整備

投資家への説明責任(ISSB/SSBJとの接続)

ISSBやSSBJの開示基準においては、「リスク」と「機会」の両面開示が求められています。

であるならば、PFAS規制についても、

- 「例外を得た」だけでは開示の説得力は弱く、

-「当社は規制があっても新素材で競争力を維持・強化できる」

 

と説明できることが重要でしょう。
(この視点は、次回記事で“機会”に焦点を当てて詳述します。)

 

開示への接続として(次回予告)

フライパンが「例外」とされていることは、ひとつの安心材料ではありますが、企業が直面するより根本的な問いを浮き彫りにしています。

 

それは、「例外があるから大丈夫」ではなく、「たとえ例外がなくても、持続的に価値を創出できるかどうか」。

 

実際、PFAS規制はフライパンにとどまらず、自動車、半導体、包装、日用品など、幅広い業界でサプライチェーンの再構築と代替技術開発を促しています。

企業にとって今重要なのは、例外や規制緩和に依存することではなく、規制をきっかけにしたイノベーションをどう「機会」として捉えるか。そしてその姿勢は、ISSBやSSBJの開示にも確実に反映されるべきものではないでしょうか。

 

そしてその姿勢は、ISSBやSSBJの開示にも確実に反映されるべきものではないでしょうか。

 

次回のブログでは、PFAS規制が企業にもたらす「機会」に焦点を当て、具体的な技術革新や市場展開の動き、そして開示でどう語るべきかについて考えてみたいと思います。

 

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本日もお読みいただき、ありがとうございました。

それではまた、次回のブログで。

 

執筆担当:川上 佳子


*1 出典:日経クロステック「PFAS一括規制に慎重論 半導体や自動車は代替困難、現実解を模索」(2025年9月9日)

*2 EU新包装規則(PPWR)における食品包装中PFASの制限・禁止方向(2026年から段階的適用見込み)

*3 イタリア・ヴェネト州PFAS訴訟の第一審有罪・費用負担判断等の報道。控訴・不服申立ての可能性があるため、最終確定ではない点に留意

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